スピーカー測定用回転台の改良

以前の記事で製作したスピーカー測定台ですが、これまでの測定の過程で改良したいポイントがでてきました。スピーカーを載せた時の安定性の面です。

台座の不安定さの解消

写真左のようなサイズがもともとのものなのですが、スピーカーを回転させた時に重心が手前側にきてしまい不安定になる問題がありました。

蝶番を取り付けて台座を広げられるようにして、収納時の大きさは変えることなく測定時の不安定さを解決しました。

台座部分を広げられるように改良

スピーカーを載せる部分の不安定さの改善

マルチウェイスピーカーの垂直方向を測定するときには、スピーカーを横倒しして各ユニットの軸上にマイクを設置して測定を行います。ただマイクの位置を頻繁に移動するのは大変なので、実際にはスピーカー自体を横にずらして行っています。

スピーカーの位置をずらすと重心の位置が移動するので、支柱の位置によってはぐらぐらしてスピーカーが落下する可能性がありました。特にツィーターの測定をする時にはどうしても重たくなるウーファー側に傾くので危険です。MJ誌の記事の支柱の位置をずらすという対応が良さそうだったので、その機能を実装してみました。

スピーカーを載せる部分の支柱位置を移動可能にした

支柱を移動できるだけでは板がたわんで結局ぐらつくことになってしまうため、支柱の下部分にボールキャスタを入れて安定するように工夫しています。

支柱したの支えとなるボールキャスタ

おわりに

特にScan-Speak Discovery 2wayスピーカーを製作した時に感じた測定用回転台の不安定さを解消することができました。これで大きめのブックシェルフスピーカーを作る時にも測定がやりやすくなるはずです。

最終測定と試聴 | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

前回の記事で組み立てが終わりました。今回は最終的な特性を測定し試聴を行います。

仕様

- エンクロージャー形式: パッシブラジエータ型
- 容積: 4.5L
- 使用ユニット
  - ウーファー: Wavecor WF120BD03
  - ツィーター: Dayton Audio ND25FW-4
  - パッシブラジエーター: Dayton Audio DS175-PR
- クロスオーバー周波数:3kHz (LR4)

Near Field測定

ネットワークボードを組み込んだことでエンクロージャーの容積が多少減ることになるため、再度Near Field測定を行い低域がフラットに伸びているか確認します。

容積は減ったものの低域のフラットさには大きな影響はなく、以前に調整した状態で問題なさそうとわかりました。

Near Field測定の結果

Far Field測定

次にFar Field測定を行います。まずはツィーターとウーファーを逆相で接続してReverse Nullの確認を行い、それぞれのユニットの位相にズレがないか検証します。

シミュレーション通り20dBほどのディップができており、想定通りの挙動となっているようです。

Reverse Nullの確認

次にツィーター側の特性を測定します。シミュレーションとは異なり15kHzあたりにあったピークが小さくなっています。

シミュレーションで使った測定結果はツィーター軸上で測定したものですが、今回のものはデザインアクシスであるツィーターとウーファーの中点の延長線で測定した結果になります。その影響かもしれません。

ネットワークを通したツィーターのSPL

ウーファー側も測定してみましょう。ツィーターとのクロスポイントに向かってきれいに減衰しており、高域のピークも潰せていることがわかります。

ネットワークを通したウーファーのSPL

総合特性

Near Field測定とFar Field測定の結果を合成して最終的な特性を出力します。

前回の記事でインピーダンス測定を行った際にツィーター側のネットワークのインピーダンスが少し低くなっていた問題がありました。その影響で軸上が2dBほどハイ上がりな特性にはなってしまっています。

一方、ListeningWindowでは非常にフラットな特性となっており、60Hz〜16kHzで±2dBのレンジにおさまっています。

最終特性の測定結果

PIRも2kHz〜2.5kHzあたりのディップを除くと高域に向かってきれいに下がっています。2kHz付近で指向性が乱れているようです。

推定PreferenceRatingも算出してみるとシミュレーションと比べて0.1〜0.2ほど下がっていました。

推定PreferenceRating (9)式

推定PreferenceRating カスタム式

試聴

もう片チャンネルも組み立て終わったので試聴に入ります。

曲をいくつか聴いてみたところ、全体的に音のバランスが良く、中音域が特に優れていると感じました。

測定値では前作の方がレンジは広いはずですが、大きなピークやディップがないためか前作よりもレンジの広さを感じます。音の余韻の表現が美しく、この曲にはこんな音が入っていたのかと驚かされることがありました。

低域は最低音域までは出ないものの、量感やアタック感はちょうど良いです。ピアノの音を正確に表現していたのが印象的でした。

女性ボーカルは高いところまで伸びており、しっかり真ん中に定位します。一方で男性ボーカルはパッシブラジエータからの音漏れの影響でこもって聴こえるようです。

全体としては前作と同等か超えたレベルで、満足のいく仕上がりになったかと思います。

次回の記事

ツィーターのレベルは少し調整しても良いかもしれませんが、これで一区切りとなります。

実測値とのズレは気になったので、原因の調査を行います。

エンクロージャーの塗装とネットワークの組み込み | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

前回の記事ではネットワークボードの製作を行いました。今回はそのボードをエンクロージャーに組み込み、スピーカーユニット等も取り付けてインピーダンス測定を行い、動作確認をします。

エンクロージャーの塗装

エンクロージャーの組み立ての記事で紹介したウォルナットの突板が貼られた状態からスタートします。

突き板が貼られた状態

表面をヤスリがけして水性ポアステインで着色していきます。着色の工程とニスでの仕上げの工程は分けた方がムラになりにくいので、この順序でやっています。

B&Wのスピーカーの色でローズナットという色がありますが、その色が好みだったのでそれに近い色合いを目指そうと思います。 端材にウォルナットの突板を貼って試したところ、ポアステインのワインレッドを塗布すると似たような色合いになりそうでした。

ポアステインを塗布した状態

この状態では若干色が明るめですが、この後にニスを塗っていくとだんだん落ちついた色合いになっていきます。

目止めのために水性サンディングシーラーを塗ってはヤスリがけをすることを3回繰り返しました。

今回のエンクロージャーは背板が取り外せる構造なためウーファーの取り付け穴に長板を通して乾燥させることができ、全面を一度に塗るのが容易でした。

長板を使って乾燥

表面が平らになってきたら水性ウレタンニスを塗って完成です。落ち着いた雰囲気になるのと塗装のムラが目立ちにくいので、ニスはつや消しタイプのものをいつも使っています。

ニスの塗布後

深めの赤で良い色合いになりました。ニスはほんの少し薄めてコテバケを使って塗ると失敗が少なくなります。薄めすぎると垂れるので注意しましょう。

スピーカーユニットやネットワークボードの取り付け

スピーカーユニットやパッシブラジエータをそのまま取り付けると段差ができてしまうので、高さを調整するために厚紙でパッキンを製作しました。

製作したパッキン

ネットワークボードを中に組み込んでスピーカーユニットなどをねじ止めしていきます。全体の配置はこんな感じになりました。

内部の配置

以前のNear Field測定で吸音材は多めにした方が良いとわかったので全体にふんわりと吸音材を入れます。

吸音材を入れた状態

パッシブラジエータを取り付けて完成です。高級感のある見た目になりました。小型で設置場所に困らない感じが良いです。

完成した姿

インピーダンス測定で動作確認

クロスオーバーネットワークが正しく動作しているかを確認するためにインピーダンス測定を行い、シミュレーションと一致しているかを確認します。

測定結果を見るとLPF側はシミュレーションと実測値がほぼ一致しているが、HPF側は7kHz以降で実測値の方が最大0.5Ωくらい低いようです。

ツィーターと並列に入っているCRの抵抗値を上げるとシミュレーション結果が実測値に近づきました。基板上で1番長い引き回しをしている部分ではあるのでパターン抵抗の問題かなと思います。

シミュレーション上は最終的な特性には軽微な影響そうです。

シミュレーション 実測
ウーファーのみ
ツィーターのみ
両方

次回の記事

次回は最終的な特性を確認するためにNear Field測定, Far Field測定を行う予定です。

板厚が薄いため音量を上げるとエンクロージャーが振動しているのは気になる点ではあるのですが、ネットワークボードがある関係で制振材を貼り付けるという対策が取りにくくて、どうするかは迷っています。

ネットワークボードの作製 | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

前回の記事ではクロスオーバーネットワークを設計しました。今回はそのネットワーク回路を調整しつつネットワークボードを組み立てます。

ネットワーク回路の調整

前回設計した回路では、4kHz付近に少しディップがあったのとクロスオーバー付近で位相がずれておりReverse Nullがあまり出ていないという問題がありました。

間違い探しに近いレベルですが、そこを改善したのが変更後の回路です。推定Preference Ratingは少し下がって6.87となりましたが、前述の問題点は解消することができました。

変更前 変更後
変更前のネットワーク回路
変更後のネットワーク回路
変更前の特性
変更後の特性

Reverse Nullも出るようになりました。

変更後のネットワーク回路のReverse Null

ネットワークボードの作製

前回の記事で描いたネットワークボードのパターンを修正して配線幅や穴あけ位置の調整、定数の変更にも対応できるように部品穴を増やしたりしました。

発注して届いた基板がこちらです。

届いたプリント基板

銅箔厚を2ozにして基板厚も2.4mmとしたのでプリント基板としては重みがあります。

端子台の部品穴が少し小さかったりと細かいミスはありましたが、大きな問題はなく組み上がりました。コテで銅箔と部品の足を結構な時間温めないとハンダが流れなかったので部品の交換は大変そうです。

基板に部品を取り付け

ウーファー側のネットワークは基板サイズに余裕がないため部品サイズを優先した選択になっています。ツィーター側は余裕あるのでお好みの部品に交換することも可能でしょう。

これくらい複雑なネットワーク回路になってくると手で組み上げるのは骨が折れる仕事ですし、この密度でこの仕上がりにはできなかったでしょうからプリント基板にして正解でした。

エンクロージャーとの固定は基板にマジックテープを貼り付けて行おうと考えています。

スピーカーケーブルのメンテナンス

昔からCANARE 4S8をスピーカーケーブルとして使っているのですがバナナプラグも古くなってきてこともあり、これを機にプラグの部分だけSatoのクレープ形状のものに新調してバイワイアリングに対応させてみました。

スピーカーケーブルのメンテナンス

デスクトップ用のケーブルですので長さは1mと短めです。

次回の記事

ネットワークボードを組み込んでインピーダンス測定までは本当はやりたいところでしたが、現在エンクロージャーの塗装作業を進めていてできませんでした。

次回の記事で塗装の話とネットワークボードの動作確認もかねてのインピーダンス測定の結果を紹介できればと思います。

クロスオーバーネットワークの設計 | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

前回の記事の測定で得られたデータを使ってWavecor WF120BD03とDayton Audio ND25FW-4のクロスオーバーネットワークを設計していきます。

ネットワーク回路の設計

前回の記事でDirectivity Indexを見て3kHzあたりでクロスさせるのが良いと検討をつけました。実際にシミュレーションを行いながらクロスさせる周波数を変えて試したところ、確かにそのあたりが良さそうです。

LR4でつなげるかLR2にするかもシミュレーションしてみましたが、LR4の方が両ドライバーの位相が比較的合うようです。

LPF側が4次のフィルタでHPF側は3次になりました。ReverseNullはそこまで大きく出ていません。

クロスオーバーネットワークの回路

LPFの後段のコイルにはコンデンサを並列に接続しており、これによりウーファーの高域のブレイクアップの帯域を抑えています。

その後に入っている回路はディッピングフィルターで、1kHz付近と200Hz付近のふくらみを潰すために入れています。

HPFはあまり変わったところはありませんが、3次のフィルタに並列して入っているコンデンサで1kHz付近を少し落としています。これはツィーター の推奨クロス周波数が少し高めだったので念のためくらいの感覚です。

ツィーターと並列に入っているCRはインピーダンス補正というよりは20kHz以上の帯域を落とすためのものです。

設計した回路でシミュレーションした特性はきれいで、軸上とListening Windowが15kHzの小さなピークを除くと60Hzからフラットです。

PIRも直線的に伸びていて良い感じです。

設計した回路の特性一覧

最低インピーダンスがかなり低めなので半導体アンプでないと駆動するのが厳しいとは思います。

前作の同式でのシミュレーション上の推定PreferenceRating (9)式 は6.5程度でしたが、今作では6.6とスコアが伸びました。

推定PreferenceRating (9)式

今作はウーファーが小口径な分、LFXが高めになっていることを考慮すると、NBDのON/PIRとSM_PIRが大きく改善した点が効いているのでしょう。

(9)式と定数を揃えたカスタム式では約6.9となりました。

ウェーブガイドを搭載したツィーターの効果が出ていますね。

推定PreferenceRating カスタム式

サブウーファーを追加した場合のスコアをwith subのチェックをONにして出してみると約9.3となりました。

推定PreferenceRating カスタム式 with sub

基板の設計

回路はできあがりましたが、LPF側は素子の数が結構多い回路になりました。

今作はエンクロージャーが小型なためネットワーク回路を格納するスペースも小さめです。ネットワークボードの大きさがわからないまま製作に入ってしまうと、エンクロージャーに入らなくて後悔するかもしれません。

そこでKiCADでネットワークボードの基板パターンを描いてみました。結果としてはLPF側はぎりぎりでしたが、何とかエンクロージャーに収まりそうです。

ネットワーク回路の基板パターン

HPFとLPFが一枚になっていますが、実際には切り離して取り付け位置も離して取り付ける予定です。

LPFの4次フィルタ回路とHPFはフィルムコンデンサと空芯コイルの構成で描いています。LPFのディッピングフィルターの部分は基板スペースの関係で電解コンデンサとコアコイルを使っています。

2層基板として設計していますが、レジストがあるとはいえ抵抗とコイルの本体部分は絶縁性に不安があるので、表面はコンデンサの下にしか配線を通していません。

部品が届いたらフットプリントに問題ないか確認して、細かい警告を修正していきましょう。

次回の記事

見直してみてネットワーク回路に問題がなさそうなら、次回はネットワークボードの製作の記事になりそうです。

Far Field測定とクロスオーバー周波数の検討 | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

前回の記事でNear Field測定が終わりましたので、今回はFar Field測定を行って測定結果からクロスオーバー周波数を検討します。

Far Field測定

ARTAで測定し、VituixCADの「Convert IR to FR」でImpulse responseからFrequency responseに変換します。

測定マイクはCross Spectrum Labが校正したDayton Audio EMM-6を使っています。

www.cross-spectrum.com

今回の測定ではVituixCADのマニュアルに記載されている方法をとっており、各ユニットの測定はそれぞれのユニットの軸上にマイクを設置して行っています。デザインアクシスの位置ではないため注意してください。

スピーカーのバッフル面とマイクの距離を1.5mとして測定を行いました。水平・垂直方向ともに+180°〜-170°の範囲を10°刻みで測定しています。

今回のエンクロージャーは側板片面にパッシブラジエータが搭載されており厳密には左右対称ではないため、水平方向においても左右どちらからも測定しています。

ウーファーの測定結果

ウーファー Wavecor WF120BD03 の測定結果が以下です。バッフルステップの影響もあり700Hzから3KHzあたりに一つの山があります。また4KHzから14KHzにかけて大きなピークがあるため、これらをネットワークでうまく処理しなければならなそうです。

ウーファーの測定結果(水平 右方向)

ウーファーの測定結果(水平 左方向)

ウーファーの測定結果(垂直天井方向)

ウーファーの測定結果(垂直 床方向)

水平方向で見ても3KHzあたりから指向性が乱れてきているようなのでクロスオーバー周波数はそれ以下が良さそうです。

ツィーターの測定結果

ツィーター Dayton Audio ND25FW-4 の測定結果は以下です。1.5KHzから3KHzにかけての山と軸外の7KHzあたりのディップ、15KHz付近のピークが気になります。

エンクロージャー設計の際にディフラクションのシミュレーションにて7KHz付近のディップが少し出ていたのでその影響でしょう。

1.5KHzから3KHzにかけての山も、ディフラクションのシミュレーションで3〜5KHzあたりが凹んでいたのでその影響は大きそうです。

ツィーターの測定結果(水平 右方向)

ツィーターの測定結果(水平 左方向)

ツィーターの測定結果(垂直 天井方向)

ツィーターの測定結果(垂直 床方向)

ツィーターのデータシートによると推奨クロスオーバー周波数は2.5KHzのようなので、それ以上でクロスさせるのが安牌かなと思います。

クロスオーバー周波数の検討

上記の周波数特性を見る限りは2.5〜3KHzあたりでクロスさせるのが良さそうですが、指標となるDirectivity Indexを見てみましょう。

赤実線がウーファーのDirectivity Indexで点線がツィーターのものです。

それぞれのユニットのDirectivity Index

Directivity Index自体は3.5KHz付近までは両方のドライバーで揃っているので、2.5〜3KHzあたりでクロスさせることは問題なさそうです。

ツィーターは1〜2KHz付近に小さな凹みがありますので、なるべく高い周波数でクロスさせた方が良さそうではあります。となると3KHzでクロスさせるのが正解かなと思いました。

ただ両ユニットともに3〜4KHzに落ち込みがあるのが気になるところではあります。

次回の記事

次回はFar Field測定の結果をもとにクロスオーバーネットワークの設計を行います。

Near Field測定とパッシブラジエータの調整 | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

前回の記事でエンクロージャーの組み立てが終わりましたので、今回はNear Field測定の結果をもとに吸音材やパッシブラジエータの調整を行います。

Near Field測定

測定用マイクをユニットやパッシブラジエータから約5mmの位置に設置した状態でARTAで測定し、VituixCADの「Convert IR to FR」でImpulse responseからFrequency responseに変換します。

その後VituixCADのMergerを使ってパッシブラジエータの出力とウーファーの出力を合成します。

Mergerでパッシブラジエータとウーファーの出力を合成

吸音材の調整

まずは吸音材を少しだけ入れた状態で測定してみます。

吸音材を少しだけ入れた状態

パッシブラジエータの出力(緑線)に1kHz付近に少し山ができています。これはエンクロージャー内部の奥行き方向の定在波の周波数と一致しているためその影響の可能性が高そうです。

吸音材を少しだけ入れた状態の測定結果

エンクロージャーの定在波シミュレーション

吸音材を軽く追加してみましたが、測定結果には大きく変わりはありませんでした。

吸音材を軽く追加した状態

吸音材を軽く追加した状態での測定結果

そこで吸音材をエンクロージャー全体にふわっと充填される程度にまで入れてみたのが以下の結果です。パッシブラジエータの出力の1kHz付近の山が小さくなりました。

吸音材をエンクロージャー全体にふわっと入れた状態

吸音材をエンクロージャー全体にふわっと入れた状態の測定結果

今回のエンクロージャーではサイズの制約からパッシブラジエーターを側板中央に配置しています。中央は定在波が最も強く出る位置なので今回のような結果になったのでしょう。

この測定結果から吸音材は多めに入れた方が良いことがわかりました。

パッシブラジエータの変更と調整

ここまでの測定結果を見てきた方は低域の音圧が足りていないことに気づいたかもしれません。200Hz以下がダラ下がりになってしまっています。

以下の記事でエンクロージャーのシミュレーションを行った時のFbは約61Hzです。しかし今回の測定では約52Hzとかなり低く出ています。

VituixCADでシミュレーションを行うと、パッシブラジエータに25gほどの重りを追加するとそれくらいのFbになるようです。

パッシブラジエータDSA175-PRに25gの重りを追加したシミュレーション

この状態ではFbが低すぎますが、パッシブラジエータ方式ではFbを上げることは難しいです。エンクロージャーの容積を減らすくらいしか方法がありません。

そこでパッシブラジエータ自体を変更することにしました。

上記のエンクロージャーのシミュレーション記事では今回使用しているDSA175-PR以外にも同じフレーム形状のDS175-PRを候補としてあげていました。DS175-PRならエンクロージャーに何も変更を加えなくても取り付け可能ですので取り寄せて試してみます。

www.daytonaudio.com

仮説としてはDSA175-PRはデータシートよりも振動系の重量が重いのではないか、ということです。

そこで届いたDS175-PRとDSA175-PRの重量を測ってみることにしました。フレーム形状が同じなので重さの差は振動系の重量の差になるはずです。

フレーム込みの重量を測るとDS175-PRが約195gなのに対してDSA175-PRは約220gと重たいという結果になりました。データシート上ではDS175-PRのMmsは36.6gで、DSA175-PRは30.7gとDSAの方が少し軽いのです。実測とデータシートが異なるとわかりました。

よって仮説は正しそうだと思ったので、DS175-PRに変更してもう一度測定してみます。シミュレーションでは約65Hzになるはずです。

DS175-PRに変更した測定結果

Fbは約64Hzとなり、DSA175-PRを搭載した時と比べて低域がフラットに伸びています。シミュレーションに近い状態になって安心しました。

このままでは70Hz付近に少し膨らみができてしまっているので、Fbを下げるためにパッシブラジエータに重りを5g追加して再度測定を行いました。

追加した重り

パッシブラジエータに5gの重りを追加した測定結果

約60-100Hzの間がほぼフラットな特性になり、これで問題なさそうです。f6は55Hzくらいでしょうか。

ネットワークボードを入れると少しエンクロージャー容積が減ってFbが上がると思うので、ネットワーク組み込み後に再度測定して調整しましょう。

次回の記事

次回はFar Field測定を行い、クロスオーバー周波数の検討を行います。

エンクロージャーの組み立て | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

前回の記事でエンクロージャーの設計までが終わりました。発注した木材も到着したので組み立てていきます。

エンクロージャーの仮組み

エンクロージャーの木材はストーリオさんに発注しました。

加工精度が高いのもありがたいですが、板取り図を作る必要がないのも嬉しくて3D CADで図面さえ描けばすぐに発注できます。

加工がかなり複雑でしたので時間がかかりましたが、数週間後に届いた木材を仮組みして設計に間違いがないか確認しました。

エンクロージャーの仮組み

特に設計にもミスがなさそうで一安心です。

バッフル板の追加加工

バッフル板にはユニットの取り付け穴や両サイドの面取り加工はしてもらったのですが、その他の細かい加工は自分で行います。

裏側の面取り加工

まずはウーファー取り付け部の裏側の面取り加工を行い、ユニット後部からの空気の通りを良くします。彫刻刀で荒削りした後に、カッタービットを使ってミニルーターで形を整えました。

ウーファー取り付け部の裏側の面取り加工

上下面の面取り加工

上下の面は30°の面取り加工を行います。突き板を貼って仕上げる予定なので45°よりは浅めの角度にしています。

ここも手加工で面取り鉋とミニルーターで行いました。角利の面取り鉋は角度を30°, 45°, 60°に調整できるので便利です。

上下面の面取り加工

www.monotaro.com

鬼目ナット・ビットインサートの埋め込み

次に鬼目ナットやビットインサートを埋め込んでいきます。

基本的には鬼目ナットをメインで使っています。しかし今回のエンクロージャーではウーファーの取り付け部に余裕がなく鬼目ナットが入らない状態でした。そのためツバの部分が小さいビットインサートを使いました。

鬼目ナット・ビットインサートの埋め込み

鬼目ナットなどはネジを使って圧力をかけて押し込んでいきますが、ラチェットタイプのドライバーを導入してからは作業がだいぶ楽になりました。圧力がかかって木材が凹んでしまうので、なるべく大きめのワッシャーを挟んで作業するのがいいと思います。

なお今回はM4のナットを埋め込みましたが、通常の低頭ネジでは頭が大きくてユニットのネジ穴に入りません。ちょっと高価でしたが、小頭のタイプの低頭ネジを購入して対処しました。

item.rakuten.co.jp

マグネットホルダーの埋め込み

最後の追加工はマグネットホルダーの埋め込みです。

グリルのフレームの方にマグネットをつける予定で、それを受けるためにマグネットがくっつく素材をバッフル板に埋め込みます。特性に影響しないようにグリルを取り外せば面一の状態になるように工夫しています。

14.5mm程度の穴を開けて皿ネジ用ワッシャを入れてねじ止めし、その上から1mm厚MDFをボンドで接着します。

金属ワッシャーを埋め込み

WSRB14-2.5 | 金属ワッシャ -皿ボルト用タイプ- | ミスミ | MISUMI(ミスミ)

穴から少しMDFが飛び出すようにしておいて、あとでヤスリをかけて仕上げます。

1mm厚MDFでフタをする

組み上げ

全体をタイトボンドとクイックバークランプ、コーナークランプを使って圧着していきます。

組み上げの様子

バッフル板の接着

小型なスピーカーで部材も多くないため、接着作業にはそこまで時間はかかりませんでした。

組み上がったばかりの姿

突き板貼り

今作では、表面仕上げに突き板を使ってみることにしました。

何種類かを取り寄せてみて着色して色合いを確かめた結果、ウォールナットの板目の突き板に決めました。

tsukiita.com

突き板用のボンドやローラー、アイロンを使って接着していきます。

突き板の接着

両サイドと前面は曲面でつながっているため、1枚の突き板で仕上げています。それ以外の各面は1枚ずつ貼り付けています。

突き板を貼った姿

ユニットの取り付け

軽く表面にヤスリがけをしてから、測定を行うためにいったんユニットを取り付けました。

ウーファーが小さいサイズなので相対的にツィーターが大きく見えます。

ユニットを取り付けた姿

モチベーションを上げるために組み上げた片チャンネルをウーファーだけで軽く鳴らしてみました。ネットワーク無しなので高域がうるさいですが、中低音域は結構期待できる音な気がします。

次の記事

次回はニアフィールド測定を行ってパッシブラジエータの調整をしたいと思います。

パッシブラジエータ型のエンクロージャーの設計 | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

前回の記事でウーファーのWavecor WF120BD03のインピーダンス測定およびT/Sパラメータの算出が終わりました。

今回はそのT/Sパラメータからエンクロージャーの設計を行います。

エンクロージャー方式の検討

前作のScan-Speak Discovery 2wayスピーカーではバスレフポートの気柱共鳴によるディップの対策に苦しめられました。

ポートをフロントに配置したことの影響も大きく、リアにすることで軽減できたかもしれません。

本作は小型に作りたいと思っており、エンクロージャー容積が小さくなることからバスレフ型ではどうしてもポート長が長くなってしまい気柱共鳴が出やすくなることが予想されます。

またデスクトップに置くことを想定しており、そうした場合にスピーカーの背後が壁であることも少なくありません。ポートをリアに配置したとしても反射してくる共鳴音が気になる可能性もあります。

密閉型はどうでしょうか。本作のウーファーは12cmと小型で密閉型では低域が不足してしまうことが考えられます。またユニットのEBPも100を超えており密閉に向いているとは言えません。

そこで本作はパッシブラジエータを使ったエンクロージャーを設計します。パッシブラジエータ型はバスレフ型と比較すると再生可能な低域が高くなってしまうものの、ポートの気柱共鳴のような現象が発生しないため中高音域に与える影響がありません。

小型スピーカーということで低域を欲張って伸ばすよりは、スムーズな特性の中高音域を実現した方が良いのではないかと考えての選択です。

パッシブラジエータの選択

パッシブラジエータにも数多くの製品があり、どれを使うのがベストなのかはスペックを見ただけではわかりません。

いつも使っているVituixCADにはパッシブラジエータ型のエンクロージャー特性のシミュレーションもできるため、それを使って絞り込んでいきます。

まずは前回の記事で測定したウーファーのT/Sパラメータを登録して、さらに候補となるパッシブラジエータのパラメータもデータシートから登録していきます。

エンクロージャー容積は仮置きで4.8Lとしてシミュレーションしましょう。

パッシブラジエータはエンクロージャーのサイドに取り付ける想定なため数を1または2として、それである程度フラットな特性が得られる候補を選定しました。

パッシブラジエータ 追加重量 f3 f6 f10 Group Delay
Dayton Audio DSA175-PR 1 5g 65.4 Hz 57.4 Hz 51.1 Hz 10.3ms
Dayton Audio DS175-PR 1 0g 64.4 Hz 56.6 Hz 50.4 Hz 10.8ms
SB Acoustics SB13PFCR-00 2 0g 68.3 Hz 57.4 Hz 50.4 Hz 9.8ms
Dayton Audio DSA135-PR 2 3g 72.3 Hz 61.7 Hz 54.2 Hz 8.0ms
Dayton Audio DS135-PR 2 5g 72.3 Hz 60.8 Hz 52.6 Hz 8.4ms

この表を見ると DSA175-PR , DS175-PR , SB13PFCR-00 あたりが候補となることがわかります。

このうちSB13PFCR-00についてはf3が他の2つと比べると若干高めになっているため、Dayton Audioの DSA175-PR または DS175-PR を1つ使う構成が良さそうです。

Dayton Audio - DSA175-PR 6-1/2" Designer Series Aluminum Cone Passive Radiator

Dayton Audio - DS175-PR 6-1/2" Designer Series Passive Radiator

両サイドにパッシブラジエータを装着した方が見た目のバランスは良さそうですが、2つ使う構成では良い特性が得られなかったので1つの構成でいきましょう。

エンクロージャー特性のシミュレーション

Dayton Audio DSA175-PR または DS175-PRを1つ使うエンクロージャーのシミュレーションを進めます。

どちらも最終的な特性に大きな差はなく、重りを追加することで同じような周波数特性を実現できるとわかりました。その場合にはDSA175-PRの方が0.5ms程度Group Delayが小さくなるようです。

最終的にはDSA175-PRに10gの重りを追加し、エンクロージャー容積を4.5Lとしたところ、以下のような特性となりました。ネットワーク回路の抵抗値として0.6Ωを入れてあります。

DSA175-PRを使った場合のシミュレーション結果

f3 64.4 Hz
f6 55.8 Hz
f10 49.7 Hz
Zmin 4.1 Ohm @ 5 Hz
Zmax 24.4 Ohm @ 99.3 Hz
GDmax 10.7 ms  @ 55 Hz
XmaxC 3.8 mm  @ 5 Hz
XmaxP 1.8 mm  @ 46.2 Hz
Pmax 2 VA  @ 5 Hz

ツィーターの選択

前回の記事でツィーターの候補を3つあげました。

  • Wavecor TW030WA11
  • Dayton Audio ND25FW-4
  • SEAS 27TBCD/GB-DXT

どれをとっても一長一短な状況で悩みましたが、2Wayスピーカープロジェクト Śiva Projectの作者のだしさんが後日フラッシュマウントと面取りで特性が改善したという話を教えてもらい心配が解消されたDayton Audio ND25FW-4を採用することにします。

Dayton Audio - ND25FW-4 1" Soft Dome Neodymium Tweeter with Waveguide 4 Ohm

他の候補と比べてだいぶ安価なこのツィーターがどのような音を奏でるのか楽しみです。

バッフルディフラクションのシミュレーション

ユニットの大きさからバッフル板のデザインはほぼ決まってしまいますが、各ユニットの位置についてはディフラクションを考慮した位置調整が必要です。

加工の都合とディフラクションの影響を考慮した結果ツィーターはバッフル上面から約7mm空けた位置にすることにしました。±1dB程度にピークとディップがおさまっています。

ツィーターのディフラクションのシミュレーション

なおディフラクションのシミュレーションは角丸め3mmでとっていますが、結果をわかりやすくするためで実際には両サイドはもう少し大きく丸めをとることにはなると思います。

ウーファーについても同様のシミュレーションを行いましたが、特に問題はありません。

ウーファーのディフラクションのシミュレーション

エンクロージャーのサイズの決定と定在波の確認

エンクロージャー実効容積を4.5Lとして、ユニットや補強板、ネットワークボードの容積を1Lとしてサイズを求めます。

エンクロージャーサイズと定在波のシミュレーション

幅160mm 高さ265mm 奥行き210mmのサイズになりました。定在波もピークが離れているので問題なさそうです。

エンクロージャーの詳細な設計

いつも通りFusion360を使って設計しました。内部にL字型の補強を入れ、背板は取り外せる形にしています。

設計したエンクロージャーの3Dモデル

次回の記事

板材を発注してから届くまでに時間がかかると思います。次は組み立ての様子をお伝えする記事になりそうです。

ユニットの検討とウーファーのT/Sパラメータの測定 | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

前回の記事でDayton AudioのRSシリーズを使ったマルチウェイスピーカーを検討しましたが、エンクロージャーが想定していたよりも1.5倍近く大きくなってしまう問題がありました。

もう一度強めにブレークインを行ってインピーダンス測定しT/Sパラメータを算出してみましたが、エンクロージャー容積を大きく変えるほどの変化はありません。Dayton Audioのユニットは比較的データシートに近い値になるという話を見たことがあったのですが、何か変わったりしたのでしょうか...

今は大きなエンクロージャーを作る気持ちがあまりないため、いったんDayton AudioのRSシリーズは積みユニットとして次回作以降に持ち越しで、別のスピーカーの検討をしたいと思います。

12cmのウーファーを使った5リットル前後の小型な2wayスピーカーをサブ機として作りたいとは思っていたので、その構成を目指そうと思います。

ウーファーの選択

今回はなるべく小型に作りたいということもありFsが低くQtsが小さめのユニットを選んでいきました。

12cmのユニットはあまり種類もないのですが、選択肢としてあがったのがWavecorのウーファーです。

たまたまセール品を見つけて安かったというのもありますが、WF120BD03を使うことにしました。

http://www.wavecor.com/html/wf120bd03_04_07_08.html

このウーファーはブレークアップの帯域を除くと比較的フラットな周波数特性をもっています。他のWavecorの同サイズのウーファーの特性も確認していますが、他と比べても使いやすそうな特性でした。

Wavecor WF120BD03 midwoofer | HiFiCompass

高調波歪みについて同価格帯のScan-Speak 12W/4524G00と比べると少し低めのようです。

ScanSpeak 12W/4524G00 | HiFiCompass

Wavecorは元Vifaのエンジニアが創業者であり、前作のScan-Speak 2wayの音と似たようなものが期待できるのではないでしょうか。

届いたウーファーはマグネットが大きくて振動板と同じくらいのサイズがあります。磁気回路の強力さに期待ができます。

Wavecor WF120BD03

ウーファーWavecor WF120BD03のT/Sパラメータの算出

早速、届いたウーファーをブレークインしました。30時間程度かけて2.83Vrms・25Hzのサイン波を鳴らしました。

フリーエアと密閉箱に取りつけて、LIMPを使ってそれぞれの状態のインピーダンス測定を行い、その結果からT/Sパラメータを算出します。

インピーダンス測定の結果

パラメータ ユニットA ユニットB データシート(ブレークイン前) データシート(ブレークイン後)
Fs (Hz) 68.4 70.3 70 (記載なし)
Re (ohm) 3.13 3.26 3.2 3.2
Qts 0.40 0.42 0.42 0.37
Qes 0.43 0.46 0.46 0.40
Qms 5.52 6.03 5.9 6.0
Mms (g) 6.12 6.23 6.55 6.55
Rms (kg/s) 0.478 0.458 0.49 0.42
Cms (mm/N) 0.885 0.823 0.79 1.03
Vas (liters) 3.30 3.07 3.25 4.25
Bl (Tm) 4.35 4.44 4.5 4.5

全体的にデータシートのブレークイン前の値に近いようです。

データシートのブレークイン後の値は7.75Vrms・20Hzのサイン波を2時間流した後の値のようですので、今回のブレークインは弱すぎた可能性があります。

もう少し強めにブレークインして値が変わるのかを再度測定したいとは思いますが、データシートの値が信用できそうなことがわかったので、設計には入れそうです。


(2022/10/25 追記)

データシートに記載されている方法で強めにブレークインを行って再測定しました。データシートのブレークイン後の結果に近い値が得られました。

パラメータ ユニットA ユニットB データシート(ブレークイン前) データシート(ブレークイン後)
Fs (Hz) 66 67 70 (記載なし)
Re (ohm) 3.06 3.15 3.2 3.2
Qts 0.37 0.38 0.42 0.37
Qes 0.40 0.41 0.46 0.40
Qms 4.47 4.75 5.9 6.0
Mms (g) 5.87 6.01 6.55 6.55
Rms (kg/s) 0.55 0.54 0.49 0.42
Cms (mm/N) 0.99 0.94 0.79 1.03
Vas (liters) 3.68 3.49 3.25 4.25
Bl (Tm) 4.3 4.4 4.5 4.5

この測定で得られたユニットA, BのT/Sパラメータの平均値を使って、今後は設計を進めていこうと思います。

ツィーターの検討

次にウーファーに合うサイズのツィーターを検討します。

本ブログでも大変参考にさせていただいている自作スピーカーマスターブックのブログで2Wayスピーカープロジェクト Śiva Projectというプロジェクトがあります。

diy-audiospeaker.sub.jp

ウェーブガイドを搭載したツィーターを採用して指向性を整えたきれいな特性が実現されています。ウェーブガイドによる指向性制御は現在のトレンドのようでMJ誌の連載でもそのような作例があります。

そこで今回の小型2wayスピーカーではウェーブガイドを搭載したツィーターを使うことにします。

Visatonなどから販売されている市販のウェーブガイドを後付けして使う手もありますが、どれもサイズが大きくて今回のウーファーのサイズ感に合うものはありません。

ウェーブガイドを搭載したツィーターであればちょうど良いサイズのものがあります。ただ種類が少なくて周波数特性を考慮すると以下の3つのユニットに絞られました。

候補1. Wavecor TW030WA11

https://www.wavecor.com/assets/images/TW030WA11_12-300px.jpg

https://www.wavecor.com/html/tw030wa11_12.html

30mmボイスコイルを搭載しコーティングされた繊維の振動板を使ったWavecorのツィーターです。

候補2. Dayton Audio ND25FW-4

https://www.daytonaudio.com/images/product/medium/1280.jpg

https://www.daytonaudio.com/product/1280/nd25fw-4-1-soft-dome-neodymium-tweeter-with-waveguide-4-ohm

Śiva Projectで採用されている安価で特性も良いDayton Audioのソフトドームツィーターです。

候補3. SEAS 27TBCD/GB-DXT

http://www.seas.no/index.php?option=com_content&view=article&id=99:h1499-06-27tbcdgb-dxt&catid=45&Itemid=239

マグネシウム/アルミニウム合金を振動板に採用したSEASのハードドームツィーターです。

どのツィーターを選ぶか?

ウーファーと同じメーカーで選ぶならWavecor TW030WA11が良いと思います。しかしデータシート上ではスムーズな特性ではあるのですが、気になるのは以下の記事では軸上の周波数特性に乱れがあることです。

hificompass.com

Dayton Audio ND25FW-4もデータシート上は非常にスムーズな特性を実現しています。ただこちらも参考にしたŚiva Projectでは軸上のレスポンスにはウェーブガイドの形状起因の乱れがあると指摘されています。

diy-audiospeaker.sub.jp

となると残るは SEAS 27TBCD/GB-DXT です。これは以下の2つの測定記事を見ても可聴帯域外のピーク以外に大きな問題は見当たりません。

www.audioexcite.com

heissmann-acoustics.de

これらの比較結果からするとSEAS 27TBCD/GB-DXTが最も良いと思いますが音を聴いたことはないので、メタルドーム特有の響きが気になる可能性はあるという点やウーファーとのキャラクターの違いが出るかどうかは気になってはいます。

以下の書籍ではWavecorの違うユニットを使った作例が紹介させており、その中では柔らい音という評価があります。このユニットもそういう音の傾向ならハードドームのツィーターは音色が合わないかもしれません。

diy-audiospeaker.sub.jp

次回の記事

求めたT/Sパラメータから次回はエンクロージャーの詳細な設計を行う予定です。

この時までにツィーターを決めないといけないので、もう少し悩んでみましょう。

SEAS 27TBCD/GB-DXTを選ぶと、以下の構成のミニバージョンといった感じになりそうですね。

heissmann-acoustics.de

この構成を見たときにパッシブラジエーターを使う構成も面白いなと感じたので、それを含めて次の記事で検討してみたいと思います。

ウーファーのT/Sパラメータからエンクロージャー形式を検討 | Dayton Audio RSシリーズで自作マルチウェイスピーカー

前回の記事ではユニットの選定とエンクロージャーの再利用ができそうか検討しました。

ウーファーとして使うDayton Audio RS150-8のブレークインが終わったので、インピーダンスを測定してT/Sパラメータを算出しエンクロージャーの検討を進めます。

ウーファーのT/Sパラメータの算出

まずはLIMPを使ってインピーダンスを測定します。

Scan-Speak Discovery 2wayスピーカーを作ったときに治具などを作ったので、それらが流用できて助かりました。

インピーダンス測定の結果

2つのユニットの両方を測定してT/Sパラメータを算出した結果が以下です。参考値としてデータシートの値も並べてあります。

こうしてみるとどちらのユニットもデータシートに比較的近めの値が出ているものの、データシートから算出した値よりは大きめのエンクロージャーが必要になりそうです。

パラメータ ユニットA ユニットB データシート
Fs 45.01 Hz 40.75 Hz 47.8 Hz
Re 6.30 ohm 6.30 ohm 6.30 ohm
Qt 0.40 0.37 0.34
Qes 0.52 0.50 0.43
Qms 1.71 1.47 1.66
Mms 6.84 g 6.82 g 7.4 g
Rms 1.135265 kg/s 1.192706 kg/s (記載なし)
Cms 1.827083 mm/N 2.235468 mm/N 1.63 mm/N
Vas 18.52 liters 22.66 liters 16.6 liters
Bl 4.827332 Tm 4.712451 Tm 5.59 Tm

以降はユニットAの値を使って設計を行います。念のためユニットBの値でも特性の大きな変化がないことだけは確認しておきましょう。

エンクロージャーの検討

上記で求めたT/Sパラメータからエンクロージャーの検討に入ります。

まずはバスレフ型か密閉型か決めるためにEBPを求めてみたところ、それぞれのユニットで86.5, 81.5となりどちらの形式でもいけそうなことがわかりました。

バスレフ型でシミュレーション

そこでまずはバスレフ型でシミュレーションしてみます。SBB4/BB4アライメントで容積を求めると13.7リットルとなりました。ポートのチューニング周波数は約40Hzです。

SBB4/BB4アライメントでのシミュレーション結果

この時の低域の再生限界となる周波数は以下です。

  • f3 : 51.1 Hz
  • f6 : 41.2 Hz
  • f10 : 33.6 Hz

十分に低い帯域まで再生できているのですが、ネックなのが容積の大きさです。他のアライメントでも計算してみましたが、15リットル程度のエンクロージャーが必要になるようです。

今回はエンクロージャーが流用できないかなと期待していたのですが、そのエンクロージャーの容積では低域が膨らむような形にしかならず、流用は難しそうです。

密閉型でシミュレーション

EBPを求めたときに密閉型でも使えるのでないかとわかったので、そちらもシミュレーションしてみました。

Qtc0.707での密閉型エンクロージャーとしてシミュレーションしたのが以下です。

Qtc0.707でのシミュレーション結果

この時の低域の再生限界となる周波数は以下です。

  • f3 : 76.6 Hz
  • f6 : 59.1 Hz
  • f10 : 46.2 Hz

バスレフ型の値と比べると高めになってしまっているものの、群遅延の小ささは魅力的です。

問題点としては、RS150-8はフェイズプラグをつけたユニットなので密閉型では空気漏れが発生してしまう可能性があります。

密閉型であればエンクロージャーが流用できそうで良いのですが、上記の空気漏れの懸念があって難しいのではないかと思います。

新しくエンクロージャーを作るなら?

検討結果からバスレフ型の方が良いと感じます。そしてバスレフ型なら新規にエンクロージャーを作ることになりそうです。

しかし15リットルとなると前回のScan-Speak Discovery 2wayスピーカーの容積の1.5倍になるため、ブックシェルフとしては大きめのエンクロージャーとなりそうです。

そこまで大きなエンクロージャーにするなら、いっそのこと3wayにしてしまっても良いかもしれません。

Dayton Audio RSシリーズにはミッドレンジとしてRS52AN-8があり、このユニットはデータシートを見る限りは特性が整っていそうです。

https://www.daytonaudio.com/images/product/medium/1564.jpg
Dayton Audio RS52AN-8

今使おうとしているウーファーRS150-8、ツィーターRST28A-4はともにアルミニウム振動板ですので、同じ材質の振動板を使っているRS52AN-8は音の統一感という点では相性が良さそうです。

Dayton Audio RSシリーズを使った3wayについては以下の書籍にも作例があります。

diy-audiospeaker.sub.jp

3wayにするとしたら、Scan-Speak Discovery 2wayスピーカーの高さをユニットに合わせて少し増やして、奥行きを容積に合わせて増やすような形になりそうです。奥行き方向に変わる部分が大きいので、見た目のサイズ感としてはそんなに変わらないでしょう。

一方でウーファーの口径が15cmしかなく、3wayとしては大きさが不足しているかなという気持ちはあります。

次回の記事

2wayでいくか3wayにするのか、もう少し検討してみましょう。

とはいえ、あまり検討材料となるものもないため、えいやで決めてしまわないといけないかもしれません。

最終測定と脚の製作 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

Scan-Speak Discoveryシリーズを使った自作2wayスピーカーも残すは最終測定のみとなりました。

この記事では測定結果と音の感想を書きます。またスピーカーの脚を作成したので紹介します。

測定結果

ネットワークを組み込んだ状態でFar Field測定を行い、Near Field測定の結果とディフラクションのシミュレーション結果をマージして最終測定結果とします。

Listening windowでの結果(図中 SPL緑線)では50Hz〜22kHzの間で±2dB以内におおむね収まっています。

軸上(図中 SPL赤線)だと12kHzより上の帯域で大きな上昇が見られます。

前回の測定で存在していた1.8kHz付近のディップや3〜6kHz付近、70Hz〜100Hzあたりの落ち込みは、ネットワークやポート調整の結果、少し改善されたようです。

最終測定結果

7kHz, 12kHz付近に落ち込みがありますが、これはツィーターのD2608/913000の特性のようで、HiFiCompassの測定にも同様のディップが存在しています。

hificompass.com

前回の測定では大きくはなかったReverse Nullですが、今回のネットワーク回路でははっきりと出ました。

逆相接続時のReverse Null

推定Preference Ratingは6.15となり当初の目標としていた6.0超えを達成です。

SMは低下したもののLFXとNBDの改善が効いているようで、前回の5.98を上回りました。

推定PreferenceRating


2022/08/14 追記

このスピーカーはデスクトップで聴くことを想定しており、軸上というよりは振った形で聴くことを想定していました。

ドライバーにRを設定するとそういう状態を再現できるとのことで、15°を設定してみたのが以下の特性です。

12kHz以降のピークがだいぶ抑えられていることがわかります。

15°振ったときの総合特性

またPreference Ratingについても定数を(9)式と揃えたカスタム式を使った方が良いというアドバイスを受けましたので、その値も記載します。

スコアはだいぶ良くなって6.75となりました。

15°振ってカスタム式を設定したときの推定Preference Rating

音の感想

音のバランスが良く、低音から高音まで満遍なく出ています。

音色は明るく、キンキンまではいかないがキラキラした感じはあり、金属楽器の音には美しさを感じました。

低音のアタック感は強くないため、どちらかというと優しい音になっています。

総じて見ると以前に製作したどのスピーカーよりもワイドレンジで満足できる作品となりました。

スピーカーの脚の製作

エンクロージャーを机に直置きだとあまり高級感がないので、脚を製作します。Fusion 360で設計してmeviyに発注しました。

設計した脚のモデル

Jantzen Audio スパイク Harma-4をねじ込んで完成させる設計にしてあります。

meviyからアルミ製で黒アルマイト加工された脚が届きました。スパイクを挿します。

meviyから届いた脚部品

スパイクをねじ込み

スピーカー本体にねじ止めして完成です。

スピーカーに脚を取り付け

最終的な構成のまとめ

  • スピーカーユニット
  • エンクロージャー
    • バスレフ型
      • 容積: 8.5リットル
      • ポート径:28mm 長さ: 40mm
      • ポートチューニング周波数: 58Hz
  • クロスオーバー周波数: 3kHz (LR4)

完成したスピーカー

ユニットの選定とエンクロージャーの検討 | Dayton Audio RSシリーズで自作2wayスピーカー

Scan-Speak Discoveryシリーズを使った自作2wayスピーカーも残すところは最終測定のみになりました。

マルチウェイスピーカーの製作は設計が多くて楽しいので、新作を作り始めようと思います。

必要な条件の整理

もう10年以上前になりますがSB Acoustics製のスピーカーユニットを使った2wayスピーカーを製作しました。当時は自分の知識があまり無くて結果としてこの2wayスピーカーは音質が微妙でお蔵入りになっています。

エンクロージャー自体は補強板が入っていたりして丈夫に作ってあり、容量も10リットル近くあります。

分解したエンクロージャーの外観

初めて製作した2wayスピーカーということもあり思い入れがあるので、うまく活用できないものかなとParts Expressを見ながら使えそうなユニットを探していました。

やはり元々の設計が15cmのウーファーですので交換品も15cmのウーファーがちょうど良いようです。多少の容量減であれば内部に補強板を追加することで可能です。

ただ流用しようとしているエンクロージャーは一つ問題がありました。当時はスピーカーユニットをバッフル板にそのまま取り付けており、ユニットとバッフル板の段差には気をつかっていなかったのです。

結果としてウーファーとツィーターの距離が数mmしか開いておらず、このままではバッフル板に追加の板をかぶせてユニットを埋め込むような形が取りにくい状態です。数mmの隙間しかない大穴を2つ開けてくれる加工業者はあまりないでしょう。

この問題には頭を悩ませたのですが、どちらかのユニットのフレーム形状が真円ではなく一部を切り取った形になっていればウーファーとツィーターの間の距離を取ることができて、価格は高くなるものの加工可能な業者もあるのではないかなと思いました。

ユニットの選定

上で述べた条件でユニットを調べると良さそうなものが2つ見つかりました。

1つ目はPeerlessのユニットでツィーターは XT25TG30-04 、ウーファーが 830860 という組み合わせです。ウーファー側が切り取られた円形になっています。

Peerless by Tymphany XT25TG30-04 1" Dual Ring Radiator Tweeter

Peerless by Tymphany 830860 5-1/4" PPB Cone HDS Woofer

ツィーターのXT25TG30-04は非常に特性が整っており、一度は使ってみたいと思っているユニットでした。

どちらも安めの価格でこの組み合わせに決めかけていたのですが、前日まであったウーファーの在庫が購入しようと思った当日には数ヶ月待ちという状態になってしまいました...


そこで別の組み合わせを探して見つけたのがDayton Audio RSシリーズです。

Dayton Audio RST28A-4 1-1/8" Reference Series Aluminum Dome Tweeter with Truncated Faceplate

Dayton Audio RS150-8 6" Reference Woofer

国内のショップではRST28A-4は真円のフレームのものしか販売されていませんが、Parts Expressには切り取られた形のフレームのものがあるようです。

これまで製作してきたスピーカーでは金属の振動板のユニットを使ったことがあまりなかったので、音を聴いてみたいという気持ちになりました。

RST28A-4のデータシートを見る限りは指向性は15kHzあたりまでは整っているようですので前作よりは整えやすいのではないでしょうか。

ツィーターが決まったので、ウーファーは同じシリーズの金属コーンを使ったRS150-8が良さそうです。

RS150-8のデータシートを見ると1.5kHzや2.7kH付近のディップが気になります。同じコーンならRS125の方が特性が整っているのですが、前述の通り12.5cmでは今回のエンクロージャーには小さすぎるので15cmの方を選択しました。

少し価格が高くなってしまいましたが在庫があるうちに注文しました。

エンクロージャーの再利用可能性の検討

エンクロージャーが本当に再利用できるのか検討したいと思います。

エンクロージャーの容積を増やすことは難しいものの減らす方向であれば可能というのは前述した通りで、問題になるのはバッフル板のサイズやユニット位置が影響するディフラクションです。

VituixCADを使ってシミュレーションします。エンクロージャーには10mmほど角を丸める加工を行う予定なので、それを含めます。

ウーファーのディフラクション

ツィーターのディフラクション

問題になるようなピーク、ディップは小さいので大丈夫でしょう。

次に内部の定在波を確認します。

製作した当初の知識不足から幅と奥行き方向の定在波の周波数がかぶってしまっており、強く出てしまう懸念があるとわかりました。

現状のエンクロージャーの定在波

内部の幅方向に5.5mmの板材を貼り付けることで1cmほど縮めます。そうすると定在波の周波数をずらすことができ、かぶるピークを小さくできました。

幅方向を縮めたときのエンクロージャーの定在波

エンクロージャー容積が8.8リットルで足りるのか念のためシミュレーションして確認しておきましょう。RS150-8のデータシートのスペックを元にバスレフ型でします。

バスレフ型エンクロージャーでのシミュレーション

ポートのチューニング周波数を48Hzとしたときにほぼフラットな特性が得られるようです。詳細な設計はT/Sパラメータ測定後にやると思いますが、容積についても大きな問題なさそうです。

ユニットが到着

スピーカーユニットが届いたのでブレークインから始めます。

ウーファーのブレークイン

次回の記事

Dayton Audioのスピーカーユニットを使ってブックシェルフ型の2wayスピーカーを作っていきます。

次回はウーファーのT/Sパラメータの測定を行ってエンクロージャーの修正設計です。

クロスオーバーネットワークとバスレスポートの改良 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事で以下の2つの改善ポイントが見えたので対策します。

  • コイルの磁束の干渉を避けるために数を3以下に減らしたネットワーク回路に変更する。
  • バスレフポートのポート径を小さくして長さを短くすることで、定在波とポート共鳴の周波数をずらす。

ネットワーク回路のコイルを減らす

コイルの数が4つと多くネットワークボードをエンクロージャー内に設置するときに、コイルの向きをそれぞれ違う方向にしたとしても磁束の干渉が避けられない状態でした。

VituixCADでのシミュレーションと比較しても干渉は大きな影響はなさそうでしたが、中域の落ち込みは少し気になるので回路を変更します。

改良後のネットワーク回路

ディッピングフィルターをスピーカーユニットと並列にしていた以前の回路から、フィルタの位置を移動させることでコイルを1つ減らせました。

ネットワーク改良後の特性

特性としてはListening Windowでの50Hz-20kHzの変化が±2dB程度におさまっています。とはいえこの特性は以前のネットワーク回路と似たようなレベルで大きな変化はありません。

推定Preference Ratingは改良前が6.57でしたが、少し下がって6.5となってしまったのは残念です。

ネットワーク改良後の推定Preference Rating

このネットワークで一度製作しましたが問題が発生しました。手持ちのD級アンプにつなぐとインピーダンスが低すぎるというエラーが出るのです。

回路を見直すとウーファーのネットワーク部分で、ディッピングフィルタの0.47uFとローパスフィルターの12.2uFが高周波領域でショート状態になっていると気づきました。

新ネットワーク回路のショート問題の解決

ショートの問題を解消したのが以下のバージョンです。ディッピングフィルターのコンデンサに直列に抵抗を入れました。

改良後のネットワーク回路 ver.2

全体的に定数を見直して特性をあまり変えることなく、Reverse Nullが大きく出るようにしました。

推定Preference Ratingは6.55まで上がったので、ほぼ以前の回路と疎遠ないレベルになりました。

ネットワーク改良 ver.2 の特性

ネットワーク改良 ver.2 の推定Preference Rating

ネットワーク改良 ver.2 のReverse Null

クロスオーバー周波数は以前に作った回路と同じく3kHzとなっています。DIの値からしてもやはりこの辺りが良い塩梅のようです。

完成した新しいネットワーク回路

製作したボードは以下のものです。

製作したネットワークボード

以前のボードは素子の数が多くて2枚のボードに分けていましたが、部品点数が減ったので1枚のボードにまとめました。それによってエンクロージャー内での取り回しが良くなりました。

ハイパスフィルターの部分はごちゃごちゃしてしまってますが、エンクロージャーのメンテナンス口が円形で中に入れるためにはこういう配置にせざるを得ない感じでした。

組み立て後にインピーダンスを測定してシミュレーションと差が発生していないか確認します。

シミュレーション 実測
ウーファー部のインピーダンス
ツィーター部のインピーダンス
総合インピーダンス

だいたいシミュレーション通りで問題なかったので、これでネットワークボードは修正完了です。

新しいポートのアタッチメントの製作

ポート径を小さくすることで長さを短くしてポート共鳴のピークを消すことができないか確認するために、新たにアタッチメントを製作しました。

製作したポートのアタッチメント

以前に製作したアタッチメントはポート径が35mmでしたが、今回製作したものはポート径28mmです。

ポート径を小さくすることでポート長を40〜50mm程度に短くすることができ、ポート共鳴を起こす周波数が定在波の周波数帯の外に出ます。

一方で音量を上げた場合のポート内の流速などが気になりますが、大音量で聴く機会があまりないので問題にならないと思っています。

ポートの調整

VituixCADで新しいポート径でエンクロージャーのシミュレーションを行なったところ41mmのポート長が最適のようです。

新しいポート径でのシミュレーション結果

そこでポート長40mmと45mmで比較測定を行います。

ポート長40mm ポート長45mm
ポート出力
ウーファー出力
中点

ポート出力を見ると以前の測定であったような1.8kHz付近のピークが消失しました。狙い通りの結果です。ウーファー出力にも特にピークやディップが現れておらず、きれいなカーブです。

中点での測定結果を見ると、わずかな差ですが60〜200Hzの部分で40mmの方がフラットな特性です。

よって40mmを採用することにしました。

次回の記事

次回は最終測定結果と試聴した感想を書こうと思います。

ネットワーク組み込み後のFar Field測定 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事でポートの調整まで終わりました。

ネットワークボードを組み込んで配線したので、次はFar Field測定を行います。その結果から改善ポイントを考察します。

Far Field測定

早速ですが結果から見てみましょう。Far Field測定を行った結果にNear Field測定の結果とバッフルステップ補正のシミュレーション結果をマージしたものです。

ネットワーク込みの総合特性

総合特性の推定Preference Ratingは5.98と6.0を切ってしまいました。ネットワークの設計段階では6.5程度でしたから、だいぶ低くなってしまっています。

念のためツィーターを逆相に接続してReverse Nullの測定も行いました。

Reverse Nullの測定

大きくはないものの、しっかりと現れています。これはシミュレーション通りです。

シミュレーションとの差分

シミュレーションで予測していた特性と実際の測定結果の差分を見てみましょう。

SPLにおけるシミュレーションとの差

一点鎖線が測定結果で点線・実線がシミュレーションのものです。簡単にわかることは以下の点です。

  • 70Hz〜100Hzあたりにディップがある。
    • ポートのチューニング不足か。
  • 100Hz〜200Hzあたりはシミュレーションより高い。
    • コイルのDC抵抗が想定より高い?
  • 1.8kHz付近のディップが大きい。
  • 3kHz〜7kHz付近の音圧が少し低い。
    • ツィーターとウーファーのネットワークのコイルが磁束が干渉しているのではないか。シミュレーションで少し値を上下させるとこのあたりがずれる。
      • ネットワークボード上の距離が近いが、今のネットワークではコイルを4つ使っているので磁束が干渉しない方向にするのが難しい。
  • 7kHzの大きなディップがある。
    • これは以前からわかっていたことでエッジディフラクションによるものではないか。

Spinoramaでも確認してみましょう。

Spinoramaでのシミュレーションとの差

PIRで見ると7kHzより高い帯域での乱れ方が変わってしまっています。これの原因はわからないですが...

他に気になるところは1kHzあたりの膨らみでしょうか。ただ一番大きく効いていそうなのは1.8kHz付近のディップのように見えます。

特性の改善ポイント

これらの結果から以下の2点を改善する方針にしようと思います。

  • バスレフポートのポート径を小さくしてポート長を短くする。
  • コイルの磁束の干渉を避けるためにコイルの数を減らしたネットワーク回路に変更する。

バスレフポートについては、前回のNear Field測定のときについでに測定していた結果を見るにポート長を50mm以下にするとポート共鳴が出ないことがわかりました。その長さまで短くするにはポート径は今の35mmからさらに小さくして28mm程度にする必要があるとシミュレーションからわかります。

コイルについては測定結果の節で述べた理由からです。3つに減らすことができれば磁束の干渉は避けられるでしょう。

一方で上記の改善ポイントに出さなかったエッジディフラクションの件については、もう塗装が終わってしまっておりエンクロージャーを作り直す気力まではないため今回は見送ります。

次回の記事

上記の改善ポイントの修正を行う予定です。

ネットワーク回路を改良しポート径を小さくしたアタッチメントを製作してNear Field測定を行い調整します。

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