前回の記事でウーファーのWavecor WF120BD03のインピーダンス測定およびT/Sパラメータの算出が終わりました。
今回はそのT/Sパラメータからエンクロージャーの設計を行います。
- エンクロージャー方式の検討
- パッシブラジエータの選択
- エンクロージャー特性のシミュレーション
- バッフルディフラクションのシミュレーション
- エンクロージャーのサイズの決定と定在波の確認
- エンクロージャーの詳細な設計
- 次回の記事
エンクロージャー方式の検討
前作のScan-Speak Discovery 2wayスピーカーではバスレフポートの気柱共鳴によるディップの対策に苦しめられました。
ポートをフロントに配置したことの影響も大きく、リアにすることで軽減できたかもしれません。
本作は小型に作りたいと思っており、エンクロージャー容積が小さくなることからバスレフ型ではどうしてもポート長が長くなってしまい気柱共鳴が出やすくなることが予想されます。
またデスクトップに置くことを想定しており、そうした場合にスピーカーの背後が壁であることも少なくありません。ポートをリアに配置したとしても反射してくる共鳴音が気になる可能性もあります。
密閉型はどうでしょうか。本作のウーファーは12cmと小型で密閉型では低域が不足してしまうことが考えられます。またユニットのEBPも100を超えており密閉に向いているとは言えません。
そこで本作はパッシブラジエータを使ったエンクロージャーを設計します。パッシブラジエータ型はバスレフ型と比較すると再生可能な低域が高くなってしまうものの、ポートの気柱共鳴のような現象が発生しないため中高音域に与える影響がありません。
小型スピーカーということで低域を欲張って伸ばすよりは、スムーズな特性の中高音域を実現した方が良いのではないかと考えての選択です。
パッシブラジエータの選択
パッシブラジエータにも数多くの製品があり、どれを使うのがベストなのかはスペックを見ただけではわかりません。
いつも使っているVituixCADにはパッシブラジエータ型のエンクロージャー特性のシミュレーションもできるため、それを使って絞り込んでいきます。
まずは前回の記事で測定したウーファーのT/Sパラメータを登録して、さらに候補となるパッシブラジエータのパラメータもデータシートから登録していきます。
エンクロージャー容積は仮置きで4.8Lとしてシミュレーションしましょう。
パッシブラジエータはエンクロージャーのサイドに取り付ける想定なため数を1または2として、それである程度フラットな特性が得られる候補を選定しました。
パッシブラジエータ | 数 | 追加重量 | f3 | f6 | f10 | Group Delay |
---|---|---|---|---|---|---|
Dayton Audio DSA175-PR | 1 | 5g | 65.4 Hz | 57.4 Hz | 51.1 Hz | 10.3ms |
Dayton Audio DS175-PR | 1 | 0g | 64.4 Hz | 56.6 Hz | 50.4 Hz | 10.8ms |
SB Acoustics SB13PFCR-00 | 2 | 0g | 68.3 Hz | 57.4 Hz | 50.4 Hz | 9.8ms |
Dayton Audio DSA135-PR | 2 | 3g | 72.3 Hz | 61.7 Hz | 54.2 Hz | 8.0ms |
Dayton Audio DS135-PR | 2 | 5g | 72.3 Hz | 60.8 Hz | 52.6 Hz | 8.4ms |
この表を見ると DSA175-PR , DS175-PR , SB13PFCR-00 あたりが候補となることがわかります。
このうちSB13PFCR-00についてはf3が他の2つと比べると若干高めになっているため、Dayton Audioの DSA175-PR または DS175-PR を1つ使う構成が良さそうです。
Dayton Audio - DSA175-PR 6-1/2" Designer Series Aluminum Cone Passive Radiator
Dayton Audio - DS175-PR 6-1/2" Designer Series Passive Radiator
両サイドにパッシブラジエータを装着した方が見た目のバランスは良さそうですが、2つ使う構成では良い特性が得られなかったので1つの構成でいきましょう。
エンクロージャー特性のシミュレーション
Dayton Audio DSA175-PR または DS175-PRを1つ使うエンクロージャーのシミュレーションを進めます。
どちらも最終的な特性に大きな差はなく、重りを追加することで同じような周波数特性を実現できるとわかりました。その場合にはDSA175-PRの方が0.5ms程度Group Delayが小さくなるようです。
最終的にはDSA175-PRに10gの重りを追加し、エンクロージャー容積を4.5Lとしたところ、以下のような特性となりました。ネットワーク回路の抵抗値として0.6Ωを入れてあります。
f3 64.4 Hz f6 55.8 Hz f10 49.7 Hz Zmin 4.1 Ohm @ 5 Hz Zmax 24.4 Ohm @ 99.3 Hz GDmax 10.7 ms @ 55 Hz XmaxC 3.8 mm @ 5 Hz XmaxP 1.8 mm @ 46.2 Hz Pmax 2 VA @ 5 Hz
ツィーターの選択
前回の記事でツィーターの候補を3つあげました。
- Wavecor TW030WA11
- Dayton Audio ND25FW-4
- SEAS 27TBCD/GB-DXT
どれをとっても一長一短な状況で悩みましたが、2Wayスピーカープロジェクト Śiva Projectの作者のだしさんが後日フラッシュマウントと面取りで特性が改善したという話を教えてもらい心配が解消されたDayton Audio ND25FW-4を採用することにします。
Dayton Audio - ND25FW-4 1" Soft Dome Neodymium Tweeter with Waveguide 4 Ohm
他の候補と比べてだいぶ安価なこのツィーターがどのような音を奏でるのか楽しみです。
バッフルディフラクションのシミュレーション
ユニットの大きさからバッフル板のデザインはほぼ決まってしまいますが、各ユニットの位置についてはディフラクションを考慮した位置調整が必要です。
加工の都合とディフラクションの影響を考慮した結果ツィーターはバッフル上面から約7mm空けた位置にすることにしました。±1dB程度にピークとディップがおさまっています。
なおディフラクションのシミュレーションは角丸め3mmでとっていますが、結果をわかりやすくするためで実際には両サイドはもう少し大きく丸めをとることにはなると思います。
ウーファーについても同様のシミュレーションを行いましたが、特に問題はありません。
エンクロージャーのサイズの決定と定在波の確認
エンクロージャー実効容積を4.5Lとして、ユニットや補強板、ネットワークボードの容積を1Lとしてサイズを求めます。
幅160mm 高さ265mm 奥行き210mmのサイズになりました。定在波もピークが離れているので問題なさそうです。
エンクロージャーの詳細な設計
いつも通りFusion360を使って設計しました。内部にL字型の補強を入れ、背板は取り外せる形にしています。
次回の記事
板材を発注してから届くまでに時間がかかると思います。次は組み立ての様子をお伝えする記事になりそうです。