仕上げのNear Field測定と吸音材・ポートの調整 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事でネットワークボードの組み込みとスピーカーユニットの取り付けが終わりました。

今回はNear Field測定を再度行い、ポート長と吸音材の量・位置を調整します。

ポート長の調整

まずは低域の音圧を見ながらポート長を調整していきます。

以前の記事では最適なポート長は63mmとしていました。

しかしネットワークボードを組み込んだことでエンクロージャー容積が減少し、 ポートの共振周波数が変わる可能性があるため、 少し長めの70mmから5mm単位で短くして調整していきます。

吸音材はエンクロージャー中心部にふわっと入れる程度で、ユニットとポートの中点付近にマイクを設置して測定しました。

Near Field測定

ポート長 Near Field測定結果(バッフルステップ込み)
70mm
65mm
60mm

ポート長65mmか60mmがフラットな特性に近いようです。吸音材の量でも少し低域の特性は変わってくることが前回の測定でわかっているので、この2つを候補に進めます。

吸音材の調整

先ほどのポート長65mmでポート出口を測定した結果です。

ポート長65mmのときのポート出力音圧特性

1.8kHz付近に大きなピークがあることがわかります。これはエンクロージャーの定在波とポート長共鳴が重なることで強く出たものであるようです。吸音材で調整することでピークを下げられないか確認します。

エンクロージャーの定在波シミュレーション

このシミュレーション結果を見ると1.8kHz〜2kHz付近には幅方向と高さ方向の定在波が存在するようです。

すでに高さ方向には十分な量の吸音材を入れており、増やしてもポート出力の低域が低下するだけで共鳴のピークには影響がありませんでした。

したがって対策は幅方向に取るべきとなりました。ポート周辺の幅方向の壁付近に吸音材を追加します。

幅方向に吸音材を追加

吸音材にはウーファー周辺にはサーモウール、ポート周辺にはホワイトキューオンを使っています。

幅方向に吸音材を追加したときのポート出力

吸音材を追加する前は低域のピークとの差が18dBほどでしたが、追加したことで20dB程度まで改善しました。完全にピークを消すことはできなかったですが昔の測定では差が15dBなかったことを考えると十分な改善であると思います。

なおポートの入り口周辺に吸音材を追加するパターンも試しましたが、ピークは大きく下がるものの低域も同時に大きく低下してしまったことから、採用は見送っています。

ポート長の決定

吸音材調整後に候補にあげたポート長 65mm、60mmで再度Near Field測定を行い、最終的なポート長を決めます。

ポート長 Near Field測定結果(バッフルステップ込み)
65mm
60mm

僅差ではあるのですが65mmの方が50Hz, 40Hz付近の音圧が高くなっており最低域まで伸びていそうです。60Hzより上の帯域では両者に差はなさそうです。

よってポート長は65mmに決定しました。

次回の記事

いよいよFar Field測定を行い、最終的にできあがった特性を確認します。

最初の記事を書いたのが2021年6月でしたので、構想から1年かかってようやく完成が近づいてきました。楽しみですね。

エンクロージャーの塗装と組み込み | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事でネットワーク回路の設計と実装が終わりました。

次はエンクロージャーの仕上げとして塗装を行います。またスピーカーユニットと組み立てたネットワーク回路、吸音材を組み込みます。

エンクロージャーの着色

エンクロージャーの組立ての記事でエンクロージャーの表面の下処理としてシーラーでの目止めとヤスリがけは終わっていました。これから着色のための塗装を行います。

塗装にはバターミルクペイントの白を選択しました。室内で行うために臭いが無いものを使いたかったからです。

最近は市販スピーカーでも白いスピーカーはよく見かけます。いつも無難に黒を選んでしまうのですが、少し冒険してみることにしました。

バターミルクペイントを1、2回塗った状態

1、2度塗った状態ではまだムラがあり、下地の色が出てしまっています。白は薄い色なので何度も塗り重ねる必要がありそうです。

バターミルクペイントを5、6回塗り重ねた状態

5、6回くらい塗り重ねたでしょうか。色むらもなくなり真っ白な状態になりました。

塗装の際の刷毛は化繊のものとスポンジ刷毛を使用しました。バターミルクペイントの原液では刷毛の跡が目立ってしまうので20%程度薄めて使っています。

表面が少し刷毛のあとが残って凸凹してきたので、320番前後のヤスリを軽くかけて表面を整えてからもう一度塗って着色は終わりです。

エンクロージャーの表面コーティング

バターミルクペイントを塗るだけでは表面が弱く、傷も汚れもつきやすい状態です。

表面を強くするためにウレタン系のニスを塗ることにしました。バターミルクペイントとの親和性を考えて同じようにバターミルクペイントを販売しているターナーのものを使います。

www.monotaro.com

トップコートを20%ほど薄めたものを2回塗ることで十分な強さになったように見えます。

トップコートを塗った状態

バターミルクペイント単体に比べるとツヤツヤしていますが、つや消しのような仕上がりになりました。多少つや消しの方が仕上げの荒さが目立たなくて良いです。

ここで作業をしているとベースの色に白を選んだ問題点があらわになりました。トップコートを塗った後についた埃が表面につくと目立ってしまうということです。これは黒などの濃い目の色を選んでいれば無かったことです。

軽く細かいヤスリで誤魔化して、取れなかったところは諦めることにしました。

ユニットとネットワークボードの組み込み

ユニットの取り付けて吸音材を入れて、ネットワークボードを配線します。

ツィーター裏の部分の吸音材から入れていきます。吸音材は多めに入れないとポートからの漏れが大きいことが過去の記事でわかっています。なので、少し多めにいれました。

ツィーター裏の吸音材

吸音材はホワイトキューオンを使いました。

ネットワークボードはマジックテープで取り付けました。ボードが想定より大きくなってしまったため、横の壁にも取り付ける形になってしまいました。

ネットワークボードの組み込み

奥のコイルの向きと手前右のコイルの向きが揃ってしまっているので干渉が起こらないか若干心配な配置になっています。現物は写真で見るほどは近くはないですが...

ウーファー裏の吸音材も入れていきます。

ウーファー裏の吸音材

ネットワークボードおよびポート周辺にも吸音材を入れて完成です。吸音材の量はまたNear Field測定を行なって調整する予定です。

完成

ようやくここまで辿り着きました。白と黒のコントラストが効いていて良いですね。

完成した姿

もう片方のチャンネルがまだ組み上がってないので、まだ音は聴けていません。

次回の記事

次回はポートと吸音材の調整になるかなと思います。

クロスオーバーネットワークの設計と製作 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事で満足のいく結果が得られたので、その測定結果を使って特性のシミュレーションを行いながら、ネットワーク回路を設計・製作します。

クロスオーバー周波数の決定

シミュレーションには定番のVituixCADを使います。

エンクロージャー修正後もウーファー、ツィーターそれぞれのクロスとなる部分のDIに大きな変化はありませんでした。

修正後のDI

2.5kHz付近から指向性に差が出てくる状況は変わっていません。

ツィーターのデータシート上の推奨クロスオーバー周波数は2次のオーダーで4kHzとなっています。

今回は2次よりも急峻なクロスにする予定なのでもう少しクロスオーバー周波数は下げられそうです。先ほどのDIの値からすると高くても3.5kHz以下にはしたいと感じます。そこで目標値として3kHzを設定します。

ネットワークの設計

いろいろと試行錯誤した結果、ウーファー側が3次のLinkwitz-Rilyフィルタとなり、ツィーター側が4次のLinkwitz-Rilyフィルタで非対称なクロスオーバーとなりました。クロスオーバー周波数は3kHz付近です。

設計したネットワークとシミュレーション結果

推定Preference Ratingのスコアは約6.5となりました。低域が思ったよりも伸びていることが大きいと思います。

リバースヌルの確認

Reverse Nullは小さめですが、一応出ています。

ここからはウーファー側、ツィーター側それぞれのネットワークの設計意図について説明します。

ウーファー側

ウーファー側のネットワーク回路

基本構造は2次のローパスフィルターですが、初段のコイル(2mH)を2つに分割して片方に抵抗をつけることで減衰特性を抑制しています。

バッフルステップ補正を行うためには大きめのコイルが必要ですが、そのままだと以下の2点の問題が発生するため、こういう構成にしました。

  • クロスオーバー周波数での減衰が大きすぎる。
  • 200Hz〜400Hz付近での盛り上がりが出てしまう。

この構成をとることできれいにバッフルステップ補正をかけることができたのですが、高域のブレイクアップが少し残ってしまいました。それを抑えるために8.5kHzあたりを狙ったディッピング回路を入れてあります。

ツィーター側

ツィーター側のネットワーク回路

こちらは3次のハイパスフィルターにI型アッテネータとインピーダンス補正回路を入れた回路です。

ツィーターの9kHz以上の暴れがひどくて特性を整えるのに苦労しました。やっぱりユニット選定の時点から暴れの少ないものを選択すべきだったなと痛感しました。

インピーダンス補正回路は必要ないと思うのですが、そのあたりの領域の特性を整えるのにつけています。ただインピーダンス補正を行うと音の元気がなくなるという話も聞くので、他の代替手段を考えた方がいいかもしれません。そのあたりはまた聴きながら調整したいと思います。

7-8kHz付近に大きなディップが見られます。これはシミュレーションする限りではバッフルのエッジディフラクションによるもののようです。かなり角を削ったことでもともと6kHz付近に出ていたディップが高域側に移動したようです。

データシート上はツィーターの7-8kHz付近に少しピークがあるのでそれと打ち消し合わないかなと思ったのですがダメでした。ここをピーキングフィルタで補正かけると全体の特性が崩れてしまうのでこのままにしてあります。

7-8kHzのディップを抑える方法として見つけたのは、ウーファーのディッピング回路の周波数を下げてウーファーから補完するような形です。ただ分割振動のはじまったウーファーの帯域を使うのは音が濁りそうだったのでその方法は避けました。

ネットワークの製作

完成したネットワークがこちらです。ネットワークボードが小さくてきれいに配線をおさめることができませんでした。

ウーファーのネットワークボード

ツィーターのネットワークボード

もともとはウーファーのボード1枚でツィーター側も実装する予定だったのですが、回路規模が大きくなってしまったためやむを得ず2枚に分けました。

木材の板に穴を開けてインサートナットを入れて、そこに丸型端子を使ってねじ止めすることで部品を固定しています。

ネットワークボード込みのインピーダンス特性

ほぼシミュレーション通りのインピーダンス特性になったのですが、5kHz付近のピークが小さくなってしまいました。

おそらく部品の誤差の影響かと思います。シミュレーションしたところツィーター側のネットワークのコイルの値が設計より小さいとそのような状態になるようです。

総合特性にはあまり影響しなさそうなので、いったんこのままでいこうと思います。

次回の記事

ネットワークの完成までできたので、次は塗装とボードの格納です。

音を早く聴きたい気持ちがあるのですが、まだもう片チャンネルのエンクロージャーの修正が終わっていないのでもう少し時間がかかりそうです。

こつこつと作業を進めながら他のオーディオ機器も含めて環境を整えていきたいと思います。

Far Field測定とNear Field測定をやり直し | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事で問題点を改善するためのエンクロージャーの修正が終わったので、Far Field測定とNear Field測定をやり直します。

前回の測定からの大きな差分は以下です。

これらの変更で前回の測定で気になったピーク・ディップがどれほど改善されたか確認していきましょう。

Far Field測定

前回の記事のポート長78mm, 吸音材追加の状態で測定を行いました。

そのため1.8kHz付近に小さいディップが見れらます。これはポート共鳴によるものです。もう少し調整すれば無くなるかもしれませんが、いったんこの状態で測定しています。

ウーファーの測定結果

(注: 前回測定分は縦軸が40dbの図になってしまっています)

前回 今回
水平方向
垂直方向(天井側)
水平方向(床面側)

水平方向では400Hz付近に見られたディップがなくなっています。これは以前の測定マイクのキャリブレーションファイルの影響で存在したものかと思います。

また1.2kHz付近にあった大きいディップがなくなり、1.8kHz付近へ移動し小さくなっています。これはポート共鳴の調整の効果です。

垂直方向の測定結果はかなり変わってしまっており比較が難しいですが、今回の測定では軸外特性に4-5kHz付近には大きなディップが現れています。

これはデータシートを見ると60度の軸外特性には存在するディップでユニットの特性かと思います。以前の測定では大きくは見られなかったのは謎ですね。ちょうどディフラクションの影響と打ち消しあったりしていたのかもしれません。

総合的に見るとネットワークのクロス周波数以下の帯域ではピークとディップが小さくなっており扱いやすい状態になったと思います。

ツィーターの測定結果

(注: ウーファーと同様に前回測定分は縦軸が40dbの図になってしまっています)

前回 今回
水平方向
垂直方向(天井側)
水平方向(床面側)

3.5kHz付近にあった大きなディップがなくなったことがわかります。これはバッフル板の面取りを大きくしたことが功を奏したのでしょう。

垂直方向(天井側)の特性グラフを見ると大きく改善されたことがわかります。

10kHz以上のあたりのピークが大きくなっているようですが、これは原因はわかっていません。

ツィーターの測定結果もクロス周波数の帯域でのディップが小さくなったことにより、ネットワークを製作しやすくなったと感じます。

Near Field測定

このスピーカーはフロントポートでウーファーとポートの位置が非常に近いです。そのような場合にNear Field測定をどう行うべきかまずは検討します。

KLIPPEL R&D SYSTEMが出しているアプリケーションノートを見ると、ウーファーとポートの中点で測定する方法が記載されています。

そこで中点で測った場合と、ポートとウーファーを別々に測りポート径でマージした結果にどの程度差が出るのか確認してみます。

中点で測定 別々に測定してマージ

90Hz以下の部分で、マージした場合の方が1dBほど低く出ているようです。大きな差ではないですが、どちらを正とするかは悩むところですね。

今回はアプリケーションノートを信じて中点で測定する方法で比較していきます。

ポート長を変えたときのNear Field測定は以下です。

ポート長 測定結果
58mm
63mm
68mm

フラットに近くなるのは68mmの場合です。

ただ前回の測定結果でネットワーク回路のシミュレーションを行ったときに100Hz〜300Hzあたりの低域が膨らむ状態になりました。

今回の測定結果でも大きくは変わらないだろうと予想し、60Hz付近が少しもり上がっている63mmにフィックスしようと思います。

次回の記事

前回の記事で行ったエンクロージャーの修正が成功し、クロスオーバー付近での特性の改善ができました。

この測定値をもとに次はネットワーク回路の設計と製作に入ります。

特性改善のためのエンクロージャー修正 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

もう2ヶ月ほど前になってしまいますが、製作した2wayスピーカーの測定を行った結果が以下の記事です。

これらの測定を通して明らかになった大きな問題点が2つあります。

  • ポート出力からの中音域の漏れによるディップ
  • エッジディフラクションによるピーク・ディップ

これらに対して対策を行いました。

ポート出力からの中音域の漏れへの対策

Near Field測定の記事の中で調査した結果、ポート長を短くすることで中音域の漏れを小さくできることがわかっています。また吸音材の調整も必要そうでした。

ポート長を短くする

ポート長を短くするためにはポート径を小さくしなければなりません。すでにエンクロージャーにはポート径42mmを前提とした穴が開いており、それをどうやって調整するかが課題になっていました。

そこでPartsExpressで取り扱っているPrecision Portのようなものを自作することで対応します。既製品にはサイズの合うものがありませんでした。

Fusion360で設計したアダプタ

Fusion 360で設計して、PCBWayの3Dプリントサービスで製作しました。ポートごとに前後に装着するので計4つ作りましたが4000円程度でできました。

フレア状のアダプタリング

出来上がってきたものは家庭用3Dプリンターで作ったようなレベルの仕上がりでしたので、全体とサイズが合わない部分のヤスリがけしてパイプの取り付けができるようになりました。

アダプタにパイプを取り付けた状態

本体へは穴に入れるだけで取り付け完了です。本組みするときには接着剤で固定しようと思いますが、とりあえずは挿し込むだけです。

本体へのアダプタの取り付け

今までのフレアポートを2つ接続する形に比べると、パイプ部分を交換するだけで長さの変更ができるためポートの調整が格段にやりやすくなりました。

吸音材の調整

吸音材は調整して、最初はこれくらいの量で測定を行っていました。

初期の吸音材の量

吸音材としてホワイトキューオンとニードルフェルトを調整して使っています。

この状態でポート長を78mmとしたときのポート出力のNear Field測定とFar Field測定を行った結果が以下です。

ポート長78mmのときのポート出力のNear Field測定結果

ポート長78mmのときのウーファーのFar Field測定結果

ポート出力のNear Field測定結果を見ると1.8kHzのあたりに大きなピークが出ています。これがFar Field測定結果にも影響を与えており、1.8kHz付近にディップができています。


(2021/01/28修正) 公開当初は定在波の影響と記述しておりましたが、コメントをいただいて再度データを精査したところポート共鳴のようでしたので、内容を修正しました。


ポート長を変えて試していくとピークの周波数が変化し、だいたいシミュレーションと一致します。

ポート長の変更によるピークの変化

なお図中の吸音材追加の部分は以下のようにポート周辺へ吸音材を追加しています。

吸音材の量を増加

吸音材を追加することでピークが小さくなることが確認できたため、その状態でFar Field測定を行ってみました。

吸音材を追加した後のウーファーのFar Field測定結果

1.8kHzあたりのディップは完全にはなくなってはいないですが小さくなりました。もう少し改善の余地はあるものの、ネットワーク完成後でもできる範囲かと思うので、いったんここで調整を止めました。

ポート共鳴の場合には吸音材が有効ではないという認識だったので、吸音材の追加でピークが小さくなるのは腑に落ちない感じではあります。何かわかったら追記しようと思います。

エッジディフラクションによるピーク・ディップへの対策

Far Field測定の記事でツィーターの特性を見てみると3kHz付近にエッジディフラクションの影響と思われる指向性の乱れが出ていました。

製作したエンクロージャーのバッフルは側板側は15mmで丸めを付けていたものの、天板側は3mmの丸めしか付けていませんでした。これによりエッジディフラクションの影響が強く出ていた可能性があります。

またバッフルにはマグネットホルダー用の金具が取り付けられており、それが多少凸凹した状態になっていたのも影響していた可能性があります。

以前の測定のときの状態

まずはバッフルの角を落とすところから始めました。見た目としても角が丸まっているよりも落とされている方がすっきりするため、丸めはあまり行っていません。

バッフルの角を落とした状態

角を落とすのはカンナでがんばって行いました。面取りカンナでざっくりと形を整えて、小さいホビーカンナで微調整をしました。カッター刃を使うタイプのボードカンナも試したのですが、刃の食い込みがキツくて木が割れてしまいそうでした。普通のカンナの方が使いやすかったです。

次にマグネットホルダー部分を対策します。マグネットホルダーを深くに埋め込んでそこを薄い板で覆うことでバッフル表面に凹凸がない状態を目指します。

マグネットホルダーを深めに取り付けた状態

1mmのMDFを被せた状態

マグネットホルダーの穴を深くして、そこに埋め込みます。そして1mmのMDF板を被せてボンドで接着しました。多少の凹凸は100番の紙やすりで削って修正です。

平らになったマグネットホルダー部分

これでエンクロージャーの修正は完了です。見た目もすっきりして良い感じになりました。

角を落として平らになった姿

もともと幅の方が奥行きよりも長い設計でしたので、バッフルの角を落としたことで幅と奥行きの見た目上のバランスが整った感があります。

測定マイクの買い替え

なおFar Field測定の記事で話題にした測定マイクのキャリブレーションファイルがガタガタしている件ですが、測定マイクを買い換えました。

同じDayton Audio EMM-6ですが、Cross Spectrum Labsが独自にキャリブレーションし直したバージョンを販売しています。

Cross Spectrum Labsのマイクのキャリブレーション特性

このマイクのおかげで、より精度の高い測定を行えるようになったと思います。

次回の記事

次はこの状態で再測定を行った結果をまとめます。結果が良くなっていると良いのですが...

Near Field測定 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事でFar Field測定とクロスオーバー周波数の検討まで終わりました。

前回に課題となっていたバスレフポートのチューニングを行います。低音域をNear Field測定し、ポートや吸音材の調整で特性を改善します。

Near Field測定

Near Field測定の様子

ポート長の調整

まずはポートの出口にマイクを設置して、ポートの出力を確認していきます。

使ったポートはJantzenAudio ダクト P43-123です。まずは何も加工しない123mmの状態で測定してみました。

ポート長123mmでの測定結果

チューニング周波数は50Hzあたりでしょうか。当たり前ですが、設計値よりもだいぶ低いです。

1.1kHz付近に大きなピークが出ており、これが全体の特性に影響を与えそうです。高域の測定限界を超えているため参考値程度ですが、影響はかなり大きそうです。

実際に前回の記事でウーファーの特性の1.1kHzあたりに明確にディップが出ていました。

このピークを対策していきます。ポートの出力比で-20dBくらいになれば、あまり影響が出なくなりそうですね。

まずポート共鳴なのか定在波の影響なのかを特定します。ポート長を変えてみたのが以下の結果です。

ポート長 ポート出力
123mm
ポート長123mmのポート出力
110mm
ポート長110mmのポート出力
100mm
ポート長100mmのポート出力
95mm
ポート長95mmのポート出力

ポート長を短くするとピーク周波数が僅かに高くなっています。そしてピークの音圧が下がっています。

最初はポート共鳴かと思ったのですが、それにしてはピーク周波数の変化が小さいので、定在波を拾っている可能性があるなと思い始めました。


吸音材の調整の前に、もう少しピークを抑えられないかと思って、ポート形状を変更してみました。

両端フレアのポートを製作

このポート(長さ100mm)を取り付けて測定した結果が以下です。

両端フレアのポートの出力

片端フレアの時と比べてピークをだいぶ抑えることができました。両端にフレアをつけることは効果が大きいとわかりました。


ポート共鳴でないことを確認するために、ポート長を45mmと半分にしてみた結果が以下です。

ポート長45mmのポート出力

1.2kHzあたりのピークは少し下がった感じですが、900〜1.1kHzあたりのレベルはガクッと下がりました。

定在波のシミュレーション結果

定在波のシミュレーション結果を見ると、900〜1.1kHzあたりは高さ方向と幅方向にあたります。1.2kHzあたりは奥行き方向です。

この結果や前述のポート長の短くした時の結果を見るに、ポート長を設計よりも短くした方が良さそうです。

吸音材の調整

次は吸音材がどの程度必要なのか、確認します。

吸音材の有無でのポート特性の比較

ポート長90mmのときに黄色が吸音材を入れない場合で、緑色がウーファーの裏側あたりにホワイトキューオンを詰めた場合です。

吸音材を入れることで400Hz以降のピークが小さくなっています。このあたりには吸音材は必須と言えそうです。

調整した吸音材の配置

ポートからの出力を見ながら1.2kHzあたりのピークが小さくなるように調整した配置です。これをベースに今後、調整していこうと思います。

まとめ

ポート出力の漏れの対策として、以下が効果がありそうとわかりました。

  • 設計よりもポート長を短めにする。これを実現するにはポート径を小さくする必要がある。
  • 片側フレアではなく両端フレアのポートを使う。
  • ピークは定在波の影響なので、吸音材の配置を調整することで、多少はピークを抑えることができる。

一方で課題としては、以下のようなものが浮かび上がってきました。

  • 既存の穴を小さくするのは難しいので、ポート径を小さくするにはアダプタを作らないといけない。
  • 両端フレアのポートは長さ調整がしずらい。
    • 片端フレアのポートはテーパーがついているので径を揃えて接合するには両方を調整しなければいけない。
    • Precision Portが使えれば良いが、この径はラインナップに無い。

これらの課題を解決して、対策を行うためにPrecision Portのようなフレアのついたアダプタのようなものの製作を検討しています。

次回の記事

特性を改善するためにエンクロージャーやポートの再加工を行います。

Far Field測定とクロスオーバー周波数の検討 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事で下塗りまで完成したスピーカーの測定を行います。ユニットとマグネットホルダーを取り付けました。

ユニットを取り付けた姿

測定にはFar Field測定とNear Field測定があります。まずはFar Field測定を行いました。

測定結果

ウーファー

15W/8434G00をエンクロージャーに取り付けた状態での測定結果が以下です。

ウーファーの測定結果(水平方向)

ウーファーの測定結果(垂直+方向)

ウーファーの測定結果(垂直-方向)

バッフルステップの影響で1kHz付近まで音圧が上がっており、そこから下がっていくような状態です。これは以下のディフラクションの結果と一致します。

ウーファーのディフラクションのシミュレーション

200Hz以下の結果がおかしくなっている角度がありますが、このあたりはNearField測定で置換するので、気にしません。


気になるピーク・ディップの原因を探ってみましょう。この記事を書いている時点でNear Field測定も終わっています。その結果からわかることも合わせて書いてあります。

周波数 種別 原因 対策
400Hz付近 ディップ 明確には原因がわかっていません。データシート上には見当たらないディップです。Near Field測定の結果からすると吸音材の量によってはポート出力にこのあたりのピークができることはわかっています。 ポート・吸音材の調整で消えるかもしれません。
1.1kHz付近 ディップ これはポート出力に出ているピークが原因です。 ポート・吸音材の調整で消えるかもしれません。
1.8kHz付近 ディップ データシート上でもこのあたりの音圧が下がっています。ユニットの特性かなと思います。 特になし。
6kHz, 8kHz付近 ピーク ブレイクアップ ネットワークでディッピングフィルターを使って抑制します。

こうしてまとめると、ポート・吸音材の調整を行えば、もう少しフラットな特性が期待できそうです。


次に指向性について見てみましょう。

0度を基準としたときのウーファーの相対音圧(水平方向)

2.5kHzあたりの浅い角度のところに少し乱れがありますが、許容範囲かなと思っています。

ウーファーのPolar Map(水平方向)

図は水平ですが、垂直方向を見ても3kHzあたりから深い角度での音圧低下が大きくなっており、クロス周波数は3.5kHzあたりが限界値のように見えます。できれば3kHzあたりでクロスさせたいと感じます。

ツィーター

次にD2608/913000をエンクロージャーに取り付けた状態での測定結果を紹介します。

ツィーターの測定結果(水平方向)

ツィーターの測定結果(垂直+方向)

ツィーターの測定結果(垂直-方向)

全体的にガタガタした特性ですね...

水平方向では3kHz付近が軸上よりも軸外の音圧が高くなっており、指向性に乱れが生じています。これはデータシートからも読み取れますが、ここまでひどくはないように見えます。下図のようにディフラクションの影響も重なる周波数なので、それが影響しているのかもしれません。

ツィーターのディフラクションのシミュレーション

16kHzのあたりに大きなピークがありますね。このピークは軸外特性をみると40度以上では見られなくなっており、ディッピングフィルターをかけるべきか、悩ましいところです。


ウーファーと同様に指向性を見てみましょう。

0度を基準としたときのツィーターの相対音圧

ツィーターのPolar Map(水平方向)

これらのグラフを見るとやはり2-4kHzあたりに指向性の乱れが存在することと、7kHzあたりから指向性に急激な変化があることがわかります。

たしかにデータシート上もそういった傾向は見られるのですが、特に2-4kHzの乱れは実測の方が大きいように思われます。

先に掲載したツィーターのディフラクションのシミュレーション結果は、角を15mm丸めたときのものです。

実際のエンクロージャーでは側板のみが15mm丸めで、ツィーター上部は3mm丸めになっており、ディフラクションの影響が強く出ると予想されます。

またマグネットホルダーの部分も少し出っ張りがあり、それも特性に悪い影響を与えていそうです。

これらの部分を対策すれば、もう少し特性を改善できる可能性があります。

ガタガタした特定は測定マイクの問題?

ツィーターの特性が非常にガタガタしているのが気になるところです。

測定マイクとしてDayton EMM-6を使っています。このマイクには個体ごとのキャリブレーションファイルが付属するのですが、そのキャリブレーションファイルの特性を見てみましょう。

マイクのキャリブレーションの特性

特に2kHz以降にかなりのピークディップが見られます。

自作スピーカーと測定 * 冬うさぎの晴耕雨読な日々 * |The long and winding road of the passive crossover network(その15) の記事にも記載があるのですが、キャリブレーションを行うときのマイクホルダーの反射を拾っているのでは?という話もあるみたいです。

キャリブレーションファイルの有無での特性比較

青がキャリブレーションファイル適用ありの時で、赤が適用なしの状態です。

キャリブレーションファイル適用なしの方が素直な測定結果に見えますね...

試しに前述の記事にあったキャリブレーションファイルに1/3octのスムージングをかけることを試してみました。

キャリブレーションファイルのスムージング有無での比較

青がスムージングなしの場合で赤がスムージングありの状態です。たしかに赤の方が尖ったピーク・ディップが減って、特性を読みやすいですね。

自分は他のキャリブレーション済みの測定マイクを所持していないので、これ以上の真偽を確認することはできませんが、より正確な測定を行いたければ、何か対策する必要あるかもしれません。

ウーファーとツィーターのクロスオーバー周波数

ウーファーとツィーターのDI

クロスオーバー周波数を決めるにあたりDIを見てみましょう。

DIがだいたい一致しているのは2.5kHzあたりまでで、そこからは乖離が大きくなっています。この傾向から3kHzあたりでクロスするのが良さそうに思えます。

ウーファーは指向性の関係で、クロスオーバー周波数は3.5kHzあたりが限界値のように見えると述べました。またツィーターも3kHz付近に指向性の乱れがあるので、それ以上の周波数でクロスさせたいです。

ところでD2608/913000のデータシートを改めて眺めていると、推奨帯域が3.5kHz以上となっていることに気づきました。

これらの情報から判断するにクロスオーバー周波数は3〜3.5kHzの間に設定するのが良いでしょう。

おわりに

ポートを未調整のままFar Field測定に臨んだ結果、ウーファーの測定結果にかなり影響が出てしまいました。ここは先にNear Field測定を行いある程度調整してからFar Field測定を行うべきだったと後悔しています。

またツィーターの測定結果を見るに、もう少しエンクロージャー側の調整も必要そうです。

  • ポートと吸音材の調整を行い、ポート出力の漏れを軽減する。
  • マグネットホルダーの部分の落とし込み加工を再度見直して平らな状態にする。
  • バッフル上部の丸めを大きくする。

これらが終われば再測定したいと思います。

すでにこの測定結果を使ってネットワーク設計は始めていますが、現状の結果で特性を整えると、複雑なネットワーク回路になってしまうことがわかってきています。

なのでエンクロージャー側でもう少し調整したいです。それで改善できないようであれば、ツィーターを変更することも考えないといけないかもしれません。

次回の記事

Near Field測定を行なってポート長と吸音材の調整を行います。

エンクロージャーの組立て | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

だいぶ時間が経ってしまいましたが、ようやくエンクロージャーの組み立てとシーラーでの目止め、表面のヤスリがけまで完了しました。

組み立ての様子

届いた木材を仮組みして問題ないことを確認して、まずは鬼目ナットの取り付けを行いました。

鬼目ナットの取り付け

次に行ったのが最も精度を要求されるサブバッフル板とバッフル板の接着です。この接着はずれてしまうとその後の修正が難しいため慎重に行いました。

サブバッフル板とバッフル板の接着

なお、事前にサブバッフル板の穴のサイズがユニットに合うのかを確認し、若干、穴が小さかったのでヤスリで拡張してから接着しました。

ユニットのフレームとのサイズ合わせ


今回は接着剤に タイトボンド と タイトボンドIII アルティメットの2種類を使い分けました。

その理由は以下の記事を読んで、接着剤の種類による粘度の差があることを知ったためです。

diy-audiospeaker.sub.jp

粘度の低いアルティメットをサブバッフル板の接着のような広い面積の接着に使用し、それ以外の部分はオリジナルの方を使うようにしました。


ここからはクランプなどを使って、ひたすら接着していきます。

補強板の接着

上板の接着

なお、今回は垂直や位置ずれを予防するために溝ざね加工を依頼してみました。

溝ざね加工

確かに位置合わせや垂直を出しやすいメリットはあったものの、加工精度によってはズレることもありました。

コーナークランプがあれば垂直を出すのは難しくないと感じたので、次回以降は特に不要かなと思います。

背板とバッフル板の接着

ここまでで箱の形ができてきました。


ここで一つ設計ミスに気づき、その修正作業に時間をとられることになります。

エンクロージャー下部の設計

エンクロージャーの下部の下板は取り外せる構造にしています。ここはネットワークの入れ替えなどのメンテナンスに使用するため、必要な機構です。

ただその下板を取り付ける部分で鬼目ナットのスペースを用意するためにL字の切り欠きを入れた部分がミスでした。

下板を取り外すことができるということは、多少の隙間ができていることです。空気の抜けを防ぐためにこの切り欠きは塞ぐ必要がありました。

そこで立方体の木のブロック材を面から少しずらして鬼目ナットのスペースを確保した状態で四隅に接着することにしました。

木ブロックを接着

これで問題は解決できたことになります。

木のブロックが余ったので、高さ方向の定在波を低減できないかと思って天板に貼り付けてみました。

千鳥模様の配置

この構造の効果は参考になる文献を見つけられなかったので不明です。修正が難しいので、悪くなってしまったらあきらめましょう。


サブバッフル板を取り付けたのはスピーカーユニットをフラッシュマウントするためです。

ただサブバッフル板は板厚の関係で5.5mmを選ばざるを得ませんでした。それに対してユニットのフレームの厚みはツィーター4.5mm, ウーファー4.8mmです。

そこで 1mm厚MDF を使って段差をなくすためのリング材を製作しました。

スピーカーユニットの段差を解消するためのリング

1mm厚と薄いためカッターで切断し、穴はドリルで開けています。

リング材はボンドで接着しますが、凹んでいる部分に接着するので少し工夫が必要です。

リング材を接着するための当て木

このような小さい当て木と余っている板材を使ってクランプで圧着しました。小さい当て木はマスキングテープで仮止めしていたのですが、圧着すると結構強固にくっついてしまい、取り外すのに少し苦労しました。


最後に側板の接着です。

側板の接着

横から見た内部構造は以下のようになっています。

内部構造

設計段階にはなかった補強としてウーファー取り付け部の下側の部分とターミナル取り付け穴部分に補強を追加しました。

ターミナル部分の補強は、その部分にネットワークボードを配置する予定なので、ケーブルを通すスペースが必要です。 そのため斜めカットした板を接着しましたが、補強としての効果は弱そうなので、複数の丸穴を開けた板のようなものにした方がよかったかもしれません。

もう片方の側板も接着して箱の形は完成です。

もう片方の側板も接着


接着がすべて完了した姿

バッフルの四隅の凹み穴はマグネットホルダーを取り付けるための穴です。マグネットで付けられるグリルを作りたかったので、ホルダーを取り付けられるようにしています。

ここから全体の凹凸をなくすため、100番のヤスリがけを行いました。

ヤスリがけを終えました

MDFはそのまま塗料を塗ると吸い込みが激しいので、目止めのためのシーラー塗布を行います。シーラーは和信のものを使いました。

シーラー塗布

シーラーを吸い込んで特に木口の部分がざらざらしているので、240番と600番のヤスリで整えていきます。

表面がきれいになりました

これで表面も整ったのでいったん完成です。

測定用の台座

前の記事で作った回転台の台座が今回のスピーカーのサイズよりも大きくて測定には不適合でした。

ちょうどいいサイズの台座を探していたところ、CLASSIC PRO / SM10という台座を見つけました。

試しに位置合わせしてみたところ、下板のスパイク取り付け穴と台座の取り付け穴がほぼ一致し、さらにバッフル板の位置も回転中心にピッタリ合うことがわかり、驚きました。 台座の取り付け穴の間隔が若干狭かったので、少し穴を拡張して対処しました。

SM10をネジ止め

この台座はネジで固定できて安定しているので、これを使って測定していこうと思います。

次回の記事

エンクロージャーが完成したので、次回は測定を行おうと思います。塗装の続きは、測定が終わったらやります。

スピーカー測定用の回転台を製作

最近製作しているスピーカーを測定するにあたり、軸上だけでなく軸外の特性も測定しようと思っています。

軸外の特性を測定するには、以下の記事にあるようにスピーカーのバッフル板を基準にして角度を指定して回転できる台が必要です。

diy-audiospeaker.sub.jp

そのための回転台を設計して製作しました。記事のように電動のものにはなりませんでしたが、しっかりしたものを製作できました。

完成したもの

支柱と回転台部分の2つから構成されています。

完成した測定用スタンド

実際にスピーカーを載せると以下のような感じになります。

正面からの測定

斜め45度からの測定

バッフル板が回転台の回転の中心にくるように設計されています。

支柱部分の構成

支柱およびスピーカーの設置台は、CLASSIC PRO MST20 スピーカースタンドのものを流用しています。

M8のボルト1本で固定できるので流用しやすい構造でした。

回転台の構成

回転台の部分はベアリング入りの回転盤とボールキャスターを組み合わせて作りました。

回転盤の中心にスピーカーのバッフル板がくるので、重心が少しずれます。台の傾きを防ぐために同じ高さのボールキャスターを取り付けることで、傾きを抑えています。

回転台の接合部

台座の部分には5度単位の目盛が記入されています。実際には10度間隔でも十分かと思いますが、細かく書いてあります。

台座の目盛り

測定のために移動させるのが楽になるように、支柱を取り外した状態で持ち運べるように設計しています。

おわりに

2wayスピーカーのエンクロージャー製作も佳境に入ってきたので、こういった測定のための治具を揃え始めました。

エンクロージャーがもうすぐ組み立て終わるので、それが一息ついたらまた記事を書こうと思います。

エンクロージャーの詳細設計 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事で大まかなエンクロージャーの大きさを決定しました。

ただその設計では高さの制限をオーバーしてしまっていたので、その点を改善した設計を検討し直します。

定在波とディフラクションをシミュレーション

前回の記事のミニチュアなトールボーイ型をベースに高さを420mmに抑えた設計を行いました。

板厚が18mm(バッフル板のみ20.5mm)で幅210mm, 奥行195mmです。

この寸法での定在波のシミュレーションは以下です。

定在波のシミュレーション

1kHz付近に定在波がかたまっているもののピークの周波数はズレているので、吸音材で対処できないものかと考えています。

もし対処できなそうであれば、他の手段を検討しましょう。

ディフラクションのシミュレーション

前回の記事で横幅を大きめにとった方がディフラクションの特性がなだらかになることがわかりました。

そのため今回も横幅を大きめにとり、前回の記事と比較してバッフルの丸めも大きくして、よりなだらかな特性になるようにしています。

エンクロージャーを設計

最終的なエンクロージャーの形状は以下のようになりました。

エンクロージャー外観図

前回の記事でつけていたスタンドはデザインを検討中なので、いったん取り外しています。

バッフル板はユニットの落とし込みを行うために15mm厚と5.5mm厚の板を重ねています。

エッジディフラクション対策として左右は15mmの丸めを行なっています。上下も3mmの丸めをしていますが、これは気休め程度かなと思います。ツィーターの位置の関係で大きな丸めにできませんでした。

左右の丸めを大きめに行うためにバッフル板を側板で挟み込む構造にしています。バッフルが2枚重ねの構造なので、こういう構造にせざるを得ません。これはデザイン上でも横幅を狭く見せるためのトリックにはなっています。

エンクロージャーの内部構造

内部構造はこのようになっており、日の字型の補強板が1枚入っています。下半分の補強が若干弱そうなので、追加で何か補強を入れるかもしれません。

底板を取り外せる構造にしており、そこからネットワークの調整を行う予定です。また底板にはスパイクや台座の取り付け穴を開けています。

おわりに

板材の発注も完了し、この設計で問題ないのかドキドキしながら、到着を待っています。

届いたら組み上がりに問題がないかを確認し、問題がなければ組み上げていこうと思います。

このスピーカーのエンクロージャーの作図はFusion360で行いました。操作方法もだいぶ慣れてきて勉強になったので、他の工作にも応用できそうです。

次回の記事

次回は届いた板材を使ってエンクロージャーを実際に組み立てていきます。

エンクロージャーサイズの決定 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事でエンクロージャー容積は9Lに決まりました。次はエンクロージャーのサイズを決めていきます。

エンクロージャーのサイズを決めるにあたっての制限事項を洗い出したあとに、定在波とディフラクションのシミュレーションを行い、実際のデザインのサンプルを作って最終的なサイズを決めていこうと思います。

各種制限事項の洗い出し

主に自分の設置環境の関係で出てくる制限などをまとめます。

エンクロージャーの制限

  • 板厚は18 or 21mmを想定。
  • 設置場所の関係で、幅240mm程度、高さ440mm程度、奥行き230mm程度まで。
  • 角丸めを行うために幅176mm以上必要。

ポート位置の制限

  • ポート位置はエンクロージャーの高さ方向の定在波の影響を受けにくい中央または1/4点に置きたい。
  • 設置場所の関係でできればフロントポートが望ましいがリアポートでも可。
    • フロントポートの場合は、最低でも高さ360mmが必要だがポート位置のことも考慮すると440mmくらいは必要。

定在波のシミュレーション

各方向の定在波があまり重ならない幅・高さ・奥行きの組を出して構成案とします。

制限内で可能なサイズを何度かシミュレーションした結果、以下の4つの組み合わせが候補になりました。

サイズ 形状 定在波
(A) 幅186
高さ432
奥行212
スリムで縦長
(B) 幅192
高さ440
奥行217
Aの板厚21mm版
(C) 幅208
高さ343
奥行234
幅広
高さと奥行きが長め
(D) 幅218
高さ438
奥行192
板厚21mmの幅広かつ縦長
奥行きが短い

(C)だけバスレフポートの共振周波数の近くに定在波の重なった部分が見られます。ポートの長さを調整する場合に気をつける必要がありそうです。

それ以外については周波数が分散しており、吸音材を使えば対処できるのではないかと思いました。

ディフラクションのシミュレーション

次に各案のディフラクションを見てみましょう。

デザインアクシスはツィーターとウーファーの中点をとしています。

ディフラクションとツィーターの合成特性の出力にはD2608/913000のデータシートの値を用いています。

ディフラクション 軸上特性
(A)幅186高さ432奥行212
(B)幅192高さ440奥行217
(C)幅208高さ343奥行234
(D)幅218高さ438奥行192

(A)と(B)のディフラクションは、3.3kHz前後にディップが見られます。これは(C)→(D)といくにつれて小さくなっているため、幅方向の大きさが影響を与えてそうです。

(C)や(D)のディフラクションでは6kHzあたりのディップが大きくなっています。ツィーター取り付け位置とバッフル上部の位置関係が関係しそうな周波数ですが、そのあたりは(A), (B)でも条件を揃えており、原因はわかっていません。

合成した軸上特性を見ると、2kHz前後の肩の特性が(A)(B)よりも(C)(D)の方がなめらかです。このあたりはクロスオーバーの周波数になるので、ピークが小さい方がウーファーと繋ぎやすそうです。

またディフラクションでも現れていた3.3kHz前後と6kHzあたりのディップを見てみます。

  • 3.3kHz前後のディップ: (A)(B)(C)には大きめに出ています。それらと比較すると(D)は小さいです。

  • 6kHzあたりのディップ: 逆に(C)(D)が大きめに出ており、(A)が最も小さい結果となりました。

6kHzのディップについては、データシート上はユニット自体にも30°特性で大きなディップがあるため、ネットワーク回路で少し持ち上げるのも手かとは感じています。また実測してから検討したいと思います。

結論

ディフラクションや合成した軸上特性を見る限りでは、(C)または(D)案を採用するのがウーファーとのクロスオーバーを設計しやすそうで、良いと思いました。

両者のデザインを比べるためにFusion360でモデルを作ってみました。

C D
幅208 高さ343 奥行234 幅218 高さ438 奥行192

C案のサイズはオーソドックスですが、奥行きの制限にはギリギリです。

バスレフポートの位置がリアになってしまうため、推奨項目のフロントポートという条件を満たすことはできていません。

D案で気になる点はデザイン上のバランスです。

高さ438mmとブックシェルフとしては大型なわりに、奥行きが192mmしかありません。幅 > 奥行きとなる形で高さがあるため物理的に不安定そうです。 ただ見た目のバランスではDも悪くなさそうです。

物理的に不安定そうなので、それを改善するために台座をつけたデザインを作ってみました。

台座をつけたデザイン

台座は自作スピーカー デザインレシピ集 マスターブックのトールボーイ型の作例を参考にモデリングしました。

ミニチュアなトールボーイという見た目で結構良さそうです。

次回の記事

台座を付けた影響で高さが少しオーバーしてしまっています。もう少し小さくできないか次の記事で検討していこうと思います。

エンクロージャーの特性シミュレーション | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事でT/Sパラメータを測定したので、そのT/Sパラメータからエンクロージャーを設計します。形式はバスレフ型です。

まず低域をどの程度伸ばすかを決めます。決定には以下の記事を参考にしました。

diy-audiospeaker.sub.jp

この記事ではスピーカーの評価スコアであるPreference rating 推定スコア6.0以上を目指して設計が進められています。

EPR 6.0以上を目指して設計する場合、LFXは約1.72以下、つまりf6が53.5 Hz以下である必要があることが分かりました。

との記述があり、製作しているスピーカーもf6=51.9Hzで設計しているようです。

これを目標として採用し、52Hzで-6dBとすることにします。

それではVituixCADを用いてシミュレーションします。

アライメントからの計算

計測したウーファーユニットのT/Sパラメータから、代表的なアライメントを用いてエンクロージャー容積とポート共鳴周波数を算出すると以下の表のようになりました。

エンクロージャー容積 ポート共鳴周波数 -3dB周波数 -6dB周波数
SBB4 4.74 L 57.8 Hz 81.2 Hz 62.6 Hz
QB3 4.86 L 65.8 Hz 74.4 Hz 62.6 Hz
SC4 4.76 L 63.1 Hz 76.6 Hz 62.6 Hz

上記のアライメントのうち、QB3とSC4はネットワーク回路の抵抗値(暫定でスピーカーケーブル(0.1Ω) + コイル(0.2Ω) * 2 = 0.5Ω)を加味すると、130Hz前後が少し盛り上がることがわかりました。

ネットワーク回路を加味した場合の低域のふくらみ

よってSBB4で算出された値をベースに、目標の52Hzで-6dBという条件を満たせるかシミュレーションしていきます。

エンクロージャーを大型化した際の群遅延をシミュレーション

本作はブックシェルフ型で設計しますが、設置する空間には余裕があるため最大で12L程度まで大型化することが可能です。

このユニットでのエンクロージャーの大型化については、例えばEllam-Discovery-15では11L程度のサイズを採用し低域を伸ばしているようです。

エンクロージャーを大型化すると低域が伸ばせる反面、群遅延が問題になります。

Scan-Speakのサイトにあるスプレッドシートで調べると60Hzのあたりで12msあたりまでなら許容範囲のようです。

SBB4で算出されたポート共鳴周波数は約58Hzですが、調整次第では上下する可能性もあるため共鳴周波数を60Hzとして12msを超えない、最大容積を探します。

容積10Lでのシミュレーション

結果としては10Lと設定した時点で12msを超える状態になりました。

調整で共鳴周波数は前後する可能性はあり、少し余裕を見て上限値は9.5Lとした方が良さそうです。

ポート直径を算出

バスレフのポートの直径についてはパワーコンプレッションを起こさないための最小面積を計算式で求めることができます。

ポートの共鳴周波数を60Hzとし、今回のユニットの振動板面積と最大振幅から算出すると、以下のようになります。

(3.23 * 80 cm2 * 0.42 cm) / (60^0.5) = 約14 cm2

これは直径 約42mmに相当します。

今回は出入口の両方をフレア付きの形状にしたいと思っています。国内のショップではそのような形状のポートは売っているところを見つけられなかったため、2本の片側フレア付きポートを接合する方針にします。

計算した直径に近い、ちょうど良さそうなポートがありました。

mx-spk.shop-pro.jp

これを使うことにします。

52Hzで-6dBを満たすポートの共振周波数のシミュレーション

容積の上限値よりもさらに余裕を持って、エンクロージャーの容積を9Lと固定してポートの共振周波数を上下させて、目標の52Hzで-6dBを満たす条件を探します。

ポート共鳴周波数 -3dB周波数(86.5dB) -6dB周波数(83.5dB)
60 Hz 59.1 Hz 52.6 Hz
59 Hz 58.2 Hz 51.9 Hz
58 Hz 58.2 Hz 51.1 Hz
57 Hz 58.2 Hz 51.1 Hz
56 Hz 58.2 Hz 50.4 Hz
55 Hz 58.2 Hz 49.7 Hz
54 Hz 59.1 Hz 49.7 Hz
53 Hz 59.9 Hz 49.0 Hz
52 Hz 61.7 Hz 48.3 Hz

-3dB周波数が低く-6dB周波数も低い、共鳴周波数を55Hzした際のシミュレーション結果が以下です。

容積9L, 共鳴周波数55Hzのシミュレーション

グラフを見るとフラットというよりは少し傾きがあります。低音の量感が不足する可能性はあります。

-3dB周波数が同じで-6dB周波数が一段階高くなる共鳴周波数58Hzにしたところ、フラットに伸びた低域と目標の52Hzで-6dBを満たすことができました。

容積9L, 共鳴周波数58Hzのシミュレーション

群遅延は55Hzで12ms以下に抑えられているので許容範囲内です。ポート長さも直径に対する長さの比が2.5以下であるので、大きな問題にはなりにくいでしょう。

この共鳴周波数を55Hzにした設計でフィックスします。

次回の記事

次の記事で具体的なエンクロージャーを設計していきます。

ウーファーのT/Sパラメータ測定 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事で選定したウーファー Scan-Speak Discovery 15W/8434G00のスピーカーボックスを設計するにあたりT/Sパラメータを測定する必要があります。

以下の本を参考にしながら、測定を行っていきます。

diy-audiospeaker.sub.jp

測定用ツールを製作

まずは測定のためのツールを一式作ることから始めました。

フリーエアー下でのスピーカーユニットの固定具

これはフリーエアーの状態、つまり何もユニットに負荷がかからない状態でインピーダンスを測定するためのジグです。

ボルトと板でユニットの磁石部分を挟み込んで固定します。

デルタコンプライアンス法での測定用ボックスの製作

デルタコンプライアンス法という測定法を行うときに、密閉箱にユニットを取り付けた状態でインピーダンスを測定する必要があります。

そのための密閉箱を製作しました。ユニット自体はクイックバークランプで固定するため取り付けネジ穴は開けていません。

インピーダンス測定用の回路

この回路はパワーアンプの出力をオーディオインターフェースのライン入力に戻すためにレベル調整を行うものです。

これらを用いて測定を行っていきます。

測定の様子

フリーエアー下での測定の様子

密閉箱に取り付けての測定の様子

T/Sパラメータを計算するには、フリーエアー下と密閉箱に取り付けた状態の2つのインピーダンス特性が必要になるため、それぞれをLIMPを使って測定しました。

測定

48時間経過時

ブレークインを始めて48時間が経過したタイミングで一度測定を行いました。

ユニットAのフリーエアーでの測定値

ユニットA ユニットB
Fs 67.35 Hz 69.35 Hz
Qts 0.43 0.43
Vas 6.23 liters 5.56 liters

まだFsやQtsが高いように感じます。

同じウーファーを使った自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック 自作スピーカーマスターブックの作例で測定した結果が掲載されていますが、その値と比べてもFsやQtsは高めに出ています。

そこであと24時間、少し出力を上げてブレイクインを続けることしました。

72時間経過時

追加で24時間のブレークインを行い、72時間経過した後に測定した結果が以下です。

ユニットA ユニットB 平均値
Fs 58.59 Hz 63.14 Hz 60.865 Hz
Qts 0.36 0.38 0.37
Vas 8.98 liters 7.43 liters 8.205 liters

だいぶ前述の作例の値に近づいてきました。15cmウーファーの値としても妥当に見えます。そのためこの測定値でいくことにします。

次回の記事

これでウーファーのT/Sパラメータを測定することができたので、ボックスの設計に移れそうです。

ユニットの測定したEBPは約150となっておりバスレフ型向きのユニットです。そのため次回はバスレフ型のボックスを設計していきます。

ユニットの選定 | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

以下の記事で新ネットワーク回路を検討していると、最近のスピーカーユニットはデータシートで見るだけでも性能が向上していることに気付きました。

この2wayを作ったのはもう10年も前になります。新規に2wayスピーカーを製作したい気持ちになってきました。

次に作るなら音質の良さに定評のあるScan-Speak製のユニットを使ったものにしたいという思いがあります。昔からのあこがれのメーカーです。

価格面を考えて、もっとも安価なDiscoveryシリーズの中からユニットの選定を始めました。

ウーファーの選定

スピーカーボックスはブックシェルフ型として、スペースの関係で8リットル以内に収めたいと思っています。

その条件を考えると使える口径は12cmか15cmになります。

15cmだとユニットのスペック次第では8リットルを超えてしまう可能性もありますが、低音域を伸ばせるのでまずは15cmで検討していきます。

またインピーダンスはパワーアンプから見たときに8Ωの方が扱いやすいだろうということで、その条件で絞ります。

そうすると以下の2つ 15W/8424G0015W/8434G00 が候補になりました。

2つのユニットをデータシートで比べると以下の差があります。

  • FsとQtsに差はほぼない
  • Vasは15W/8424G00が14.5Lに対して15W/8434G00が12.8L
  • どちらも200Hz-2kHzまでフラットな特性
  • 高域のブレークアップは15W/8424G00の方が小さい

今回はサイズ制限があるため、なるべく小型にまとめられるユニットを選びたいです。

FsとQtsがほぼ同じであるならVasの値が小さい方が小型なエンクロージャーにできるので、15W/8434G00を選択します。

高域のブレークアップが強めなのはネットワーク回路を工夫して処理しましょう。

15W/8434G00はEllam-Discovery-15のように製作例が存在したため、ネットワーク回路などを参考にできる点も良いところです。

また以下の本にも作例の紹介があります。

diy-audiospeaker.sub.jp

ツィーターの選定

15W/8434G00は、旧Vifa製のユニットをScan-Speakが調整したもののようなので、Tymphany(Peerless / Vifa)製ユニットと組み合わせるのが、音色が合いやすいのかもしれません。

選択したウーファー15W/8434G00の使用例を見ると、旧Vifa製のリングラジエーター型のツィーターと組み合わせたものが多くみられます。

リングラジエーター型のツィーターは、40kHzまで伸びたレスポンスを持ち、軸上では20kHzまでほぼフラットという抜群の特性を持っています。弱点としては指向性が狭いことがあげられます。

R2604/832000 – Scan-Speak A/S

上記ユニットのダブルマグネット版もあります。

R2604/833000 – Scan-Speak A/S

Fsが440Hzと低くなり、能率も2dB程度上がっています。代わりに減衰し始める周波数が2kHzと高くなっており、8kHz〜15kHzあたりのレベルが少し低い状態にはなっています。

特性で選べばR2604/832000を選択するのが、素直で扱いやすそうです。

悩む点としては、ツィーターとウーファーのタイムアライメントを揃えるために傾斜バッフルを導入すると、リングラジエーター型のツィーターの指向性の狭さが効いてきて、高音域が落ちる特性になってしまう可能性があるところです。


別のTymphany出身のユニットを探すと以下のものがあります。

D2608/913000 – Scan-Speak A/S

こちらは一般的なソフトドームのツィーターです。Peerless時代から歪みの少ないツィーターとして定評があったようです。

リングラジエーター型のツィーターと比べると、SPL特性のフラットさは負けますが、軸外での特性も良く傾斜バッフルにしても問題なさそうにみえます。

このツィーターの評価は高く、Studio-101-mkIIの中で、

I've praised the D2608/913000 tweeter before, and this tweeter in terms of quality belongs in one of the higher categories among ScanSpeak tweeters.

と述べられているようにワンランク上のシリーズのウーファーと組み合わせた製作例が出てくるほどです。


Tymphanyのユニットにこだわらず、傾斜バッフルにしても特性が問題なさそうなツィーターを探すとD2604/833000も候補になります。

D2604/833000 – Scan-Speak A/S

このツィーターは15kHz〜25kHzあたりに大きなピークがあり、扱いづらそうな印象を受けました。

ただ、軸外SPL特性では30°であっても、なんとか20kHzまである程度の音圧を維持しており、軸外で聴くことが多い場合は候補になりそうです。

今回の用途では軸外で聴くことはあまり重視しておらず、また傾斜バッフル & デザインアクシスを考慮してもピークのあたりの調整が大変そうなので、候補から外します。


これまでの検討結果からツィーターの候補は

に絞られました。

今回のエンクロージャーでは、

  • 傾斜バッフルによるタイムアライメントの調整
  • デザインアクシスを考慮した設計

を目指したいと考えています。その点から軸外特性を重視し、D2608/913000を選択することにしました。

R2604/832000も非常に特性が良く、リングラジエーター型特有のキレのある高音という評価も気になっています。将来的に別作品で使用することになるでしょう。

次回の記事

今は届いたウーファーのブレイクインを行っています。48時間くらいかけて行う予定です。

次はどんなエンクロージャーにするのか考えます。

自作2wayスピーカーのネットワークのクロスオーバーをシミュレーションを用いて設計し直す

自作スピーカーを再開しようと思うにあたり、最近の自作環境を調べていたところVituixCADが非常に高機能であることを知り、AudiFillさんが日本語で解説してくれているページを見て一度触ってみることにしました。

製作の方針

初めてのソフトウェアで、いきなり新規設計で新しくスピーカーを作るというのは冒険しすぎに感じたので、まず手持ちのSB Acousticsのユニットを使った自作2wayスピーカーのネットワーク回路を変えることに着手することにした次第です。

10年ほど前に作ったSB Acousticsの2wayスピーカーですが、他のスピーカーと比べるとボーカル帯域が引っ込む感じがあり、あまり常用されない状態になっていました。

今回の改修でそういった面が改善できたら良いなと思っています。

以前の設計はブログに残っているのですが、だいぶ忘れてしまっている面もあるので、ゼロベースで作り直していきます。

クロスオーバー周波数を決める

まずウーファーとして使用しているSB15NRXC30-8の周波数特性を確認します。

ウーファーのSPL

目につくのが6kHzから9kHzにかけての大きな山です。これはツィーターの担当する音域に影響するので潰す必要があるでしょう。

このウーファーは2kHzあたりから音の指向性が高くなっており、正面以外の角度での音圧が下がっています。 ということで、クロスオーバーさせる周波数は3kHz以下にしたくなります。

ツィーターのほうはどうでしょうか。SB25STAC-C000-4の周波数特性を見ると、3.8kHzあたりでガクッと落ちるディップがあります。

ツィーターのSPL

このディップを埋めたいと考えると、ウーファーとのクロスは高めに設定した方が良さそうです。

ウーファーは2kHzから3kHzの間にしたい、特に指向性の点から2kHz前半が良いが、ツィーターはできるだけ高い周波数でクロスさせたいという2点を考慮して、クロスオーバー周波数を2.5kHzで設計します。

ネットワーク回路のシミュレーション

ユニットのデータシートから必要な項目を入力します。また箱はすでにあるバスレフボックスを使うので、それもシミュレーションに組み込みます。バッフルステップ補正も入れれば準備完了です。

クロス部分で4次のLinkwitz–Rileyフィルターの特性を目指し、全体としてフラットな特性を狙ったネットワーク回路が以下です。

新ネットワーク回路のシミュレーション結果

ツィーターとウーファーについては、過去の計測でインパルス応答で200usだけウーファーが遅いことがわかっています。そのため、それをDriverのウーファーのdelayに指定しています。

ウーファーのネットワーク回路

ウーファーのネットワーク回路を見てましょう。この回路は4次のLCネットワークをベースに2つのディッピングフィルターを組み合わせています。

ローパスフィルター回路

後段の0.7mHコイルについているフィルターは、約7kHzを狙っており、先述した6kHzから9kHzにかけての大きな山を潰すためのフィルターです。

前段の0.8mHコイルのフィルターは、500Hz〜1kHzに現れる山を抑えるためのフィルターです。

データシート上はそこまで大きな山ではないのですが、バッフルステップ補正の影響で大きな山ができることがシミュレーションでわかりました。それを補正するために入れています。

ツィーターのネットワーク回路

ツィーター側はシンプルな回路で3次のLCネットワークにアッテネーターを加えただけの回路です。

ハイパスフィルター回路

ユニット自体の特性が素直なので特に変わったことはしていません。

ウーファー側が4次でツィーター側が3次とずれていますが、シミュレーション上はこれで位相がぴったりと合うことがわかっています。以下のようにユニットの極性を逆にするときれいにディップが出ます。

ユニットを正相にした場合

まとめ

VituixCADは高機能で、このようなシミュレーションがたった3、4日くらいでできました。10年前とは大きく環境が変わっていますね。

このネットワーク回路でどのように音の変化があるのかが楽しみです。

またシミュレーションと実際の特性がどの程度一致するのか検証してみたいと思っています。

続編

本文と同じくVituixCADを使ってScan-Speak Discoveryシリーズを使った2wayスピーカーの設計・製作を行っています。

©2023 みや All rights reserved.