エンクロージャーの特性シミュレーション | Scan-Speak Discoveryシリーズで自作2wayスピーカー

前回の記事でT/Sパラメータを測定したので、そのT/Sパラメータからエンクロージャーを設計します。形式はバスレフ型です。

まず低域をどの程度伸ばすかを決めます。決定には以下の記事を参考にしました。

diy-audiospeaker.sub.jp

この記事ではスピーカーの評価スコアであるPreference rating 推定スコア6.0以上を目指して設計が進められています。

EPR 6.0以上を目指して設計する場合、LFXは約1.72以下、つまりf6が53.5 Hz以下である必要があることが分かりました。

との記述があり、製作しているスピーカーもf6=51.9Hzで設計しているようです。

これを目標として採用し、52Hzで-6dBとすることにします。

それではVituixCADを用いてシミュレーションします。

アライメントからの計算

計測したウーファーユニットのT/Sパラメータから、代表的なアライメントを用いてエンクロージャー容積とポート共鳴周波数を算出すると以下の表のようになりました。

エンクロージャー容積 ポート共鳴周波数 -3dB周波数 -6dB周波数
SBB4 4.74 L 57.8 Hz 81.2 Hz 62.6 Hz
QB3 4.86 L 65.8 Hz 74.4 Hz 62.6 Hz
SC4 4.76 L 63.1 Hz 76.6 Hz 62.6 Hz

上記のアライメントのうち、QB3とSC4はネットワーク回路の抵抗値(暫定でスピーカーケーブル(0.1Ω) + コイル(0.2Ω) * 2 = 0.5Ω)を加味すると、130Hz前後が少し盛り上がることがわかりました。

ネットワーク回路を加味した場合の低域のふくらみ

よってSBB4で算出された値をベースに、目標の52Hzで-6dBという条件を満たせるかシミュレーションしていきます。

エンクロージャーを大型化した際の群遅延をシミュレーション

本作はブックシェルフ型で設計しますが、設置する空間には余裕があるため最大で12L程度まで大型化することが可能です。

このユニットでのエンクロージャーの大型化については、例えばEllam-Discovery-15では11L程度のサイズを採用し低域を伸ばしているようです。

エンクロージャーを大型化すると低域が伸ばせる反面、群遅延が問題になります。

Scan-Speakのサイトにあるスプレッドシートで調べると60Hzのあたりで12msあたりまでなら許容範囲のようです。

SBB4で算出されたポート共鳴周波数は約58Hzですが、調整次第では上下する可能性もあるため共鳴周波数を60Hzとして12msを超えない、最大容積を探します。

容積10Lでのシミュレーション

結果としては10Lと設定した時点で12msを超える状態になりました。

調整で共鳴周波数は前後する可能性はあり、少し余裕を見て上限値は9.5Lとした方が良さそうです。

ポート直径を算出

バスレフのポートの直径についてはパワーコンプレッションを起こさないための最小面積を計算式で求めることができます。

ポートの共鳴周波数を60Hzとし、今回のユニットの振動板面積と最大振幅から算出すると、以下のようになります。

(3.23 * 80 cm2 * 0.42 cm) / (60^0.5) = 約14 cm2

これは直径 約42mmに相当します。

今回は出入口の両方をフレア付きの形状にしたいと思っています。国内のショップではそのような形状のポートは売っているところを見つけられなかったため、2本の片側フレア付きポートを接合する方針にします。

計算した直径に近い、ちょうど良さそうなポートがありました。

mx-spk.shop-pro.jp

これを使うことにします。

52Hzで-6dBを満たすポートの共振周波数のシミュレーション

容積の上限値よりもさらに余裕を持って、エンクロージャーの容積を9Lと固定してポートの共振周波数を上下させて、目標の52Hzで-6dBを満たす条件を探します。

ポート共鳴周波数 -3dB周波数(86.5dB) -6dB周波数(83.5dB)
60 Hz 59.1 Hz 52.6 Hz
59 Hz 58.2 Hz 51.9 Hz
58 Hz 58.2 Hz 51.1 Hz
57 Hz 58.2 Hz 51.1 Hz
56 Hz 58.2 Hz 50.4 Hz
55 Hz 58.2 Hz 49.7 Hz
54 Hz 59.1 Hz 49.7 Hz
53 Hz 59.9 Hz 49.0 Hz
52 Hz 61.7 Hz 48.3 Hz

-3dB周波数が低く-6dB周波数も低い、共鳴周波数を55Hzした際のシミュレーション結果が以下です。

容積9L, 共鳴周波数55Hzのシミュレーション

グラフを見るとフラットというよりは少し傾きがあります。低音の量感が不足する可能性はあります。

-3dB周波数が同じで-6dB周波数が一段階高くなる共鳴周波数58Hzにしたところ、フラットに伸びた低域と目標の52Hzで-6dBを満たすことができました。

容積9L, 共鳴周波数58Hzのシミュレーション

群遅延は55Hzで12ms以下に抑えられているので許容範囲内です。ポート長さも直径に対する長さの比が2.5以下であるので、大きな問題にはなりにくいでしょう。

この共鳴周波数を55Hzにした設計でフィックスします。

次回の記事

次の記事で具体的なエンクロージャーを設計していきます。

©2023 みや All rights reserved.