スピーカーユニットの選定とエンクロージャーの検討 | Wavecor FR085CU03を使った3wayスピーカーの製作

前作のWavecor & SEASのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカーは昨年末のアニソンオーディオフェス2023に出展したところ、「勢いがありソリッドな低音」「すっきりとしてクリアな中高音」「位相の合った違和感のないクロスオーバーでフルレンジのような音」「どの曲も破綻なく鳴らし切る」といったようなコメントをいただきました。少しウーファーの癖が強すぎたかなという感じがあったり、インピーダンスが低くてアンプに負荷がかかる問題があったりしますが、全体としては期待値よりも上振れした完成度のものができてよかったです。

2wayのバスレフ型については、前作で現状できることはすべてやってしまったので、新しく作っても大きな改善はできなさそうです。そこで今回はこれまで作ったことがなかった3wayスピーカーに挑戦してみたいと思います。

ミッドレンジの選定

これまでの作品でWavecorのユニットをよく使っており、その出音も好みです。2023年のONTOMO MOOKの付録が同社のスピーカーユニットということで早速購入しました。

Wavecor FR085CU03

www.ongakunotomo.co.jp

この FR085CU03 を使って新作を作ろうと思っていたのですが、表紙に書いてあるT/Sパラメータからも察することができるように、フルレンジとして使ってもそのままでは低域をフラットに伸ばすことは難しそうです。記載されていた周波数特性を見ても4kHz以降は音圧が下がっており、高域側もフルレンジとしては少し使いにくそうに感じます。

そこでこのドライバーをミッドレンジとして使って、前作と同じくらいの大きさ(幅15cm / 高さ30cm / 奥行き25cm 程度)にまとめたコンパクトな3wayを作ってみようと思いました。

ツィーターの選定

ミッドレンジがWavecor製ということで、音色に統一感が出るように同社のドライバーから選定します。同社のツィーターには口径が22mmと30mmのラインアップがありますが、今回はミッドレンジが6cmと小径なため、クロスオーバーは高めに設定することになるだろうという予想から22mmのものを選択します。

高さを30cm程度に抑えたいと思っているので、12cmのウーファーを使ったとしてもツィーターの外径が104mmだと入りません。そこでTW022WA09という外径が70mmのものを使うことにしました。

Wavecor TW022WA09

https://www.wavecor.com/html/tw022wa07_08_09_10.html

データシートの特性を見る限りでは軸外の特性も良さそうで、軸上も20kHzまで伸びています。

ウーファーの選定とT/Sパラメータの算出

ミッドレンジがアルミコーンということでハード系の振動板を使ったウーファーの方が音色が揃って良いかもと感じました。Wavecor製のウーファーを採用しようかと思っていたのですが、同社のドライバーには金属コーンのラインナップはありませんので他社のドライバーを検討します。

エンクロージャーサイズからは12cmのドライバーでないとおさまりません。ちょうどセールで買ったSB Acoustics SB12CACS25-4が手元にあったので、このドライバーが使えないか確認してみようと思います。

sbacoustics.com

48時間程度25Hz 2.83Vrmsのサイン波を流してブレークインを行い、インピーダンス測定を行いT/Sパラメータを算出します。SB AcousticsのドライバーはデータシートのT/Sパラメータから結構ずれるようなので心配しましたが、想定内の値が出ました。

パラメータ ユニットA ユニットB データシート
Fs (Hz) 52.4 52.4 51
Re (ohm) 3.14 3.1 3.1
Qts 0.35 0.34 0.31
Qes 0.38 0.36 0.33
Qms 4.93 5.00 4.89
Mms (g) 5.18 5.18 6.1
Rms (kg/s) 0.35 0.34 0.4
Cms (mm/N) 1.78 1.78 1.60
Vas (liters) 6.28 6.29 5.7
Bl (Tm) 3.77 3.84 4.3

ミッドレンジのドライバーよりウーファーの方がSPLは2dB高いですが、ミッドレンジ側はバッフルステップでの音圧の上昇があるので問題ないかなと思っています。

エンクロージャーの検討

全体の大きさが幅15cm、高さ30cm、奥行き25cm程度を想定しているため板厚18mmを引くと容積は約6.5リットルとなります。1リットルくらいは内部の仕切りやネットワークボードで減ることを考えると5.5リットル程度の容積をミッドレンジとウーファーで分割することになりそうです。

ミッドレンジのエンクロージャー

ミッドレンジは低域を伸ばす必要がないため小型の密閉型にするのが良いでしょう。軽くブレークインを行い、T/Sパラメータを算出してみるとQtsが1.05とデータシートより高い値となりました。

シミュレーションしてみると少し低域が盛り上がりますが、1.5リットルくらいの容積があれば400Hzくらいまではおおむねフラットにできそうです。

FR085CU03のエンクロージャーシミュレーション

ウーファーのエンクロージャー

ウーファーのエンクロージャーについてはなるべく低域を低いところまで伸ばしたいためバスレフ型にしましょう。3wayということでクロスオーバー周波数を低くとることができるため、気柱共鳴などをあまり気にしなくて良い点は設計が楽です。

ミッドレンジに割り当てて残る容積は4リットル程度ですので、その条件でシミュレーションします。コイルのDCRを0.4Ωとして設定した条件だとFbを54Hzくらいに設定するのがよさそうです。群遅延も50Hzで10ms以下に抑えられており、問題なさそうです。

SB12CACS25-4のエンクロージャーシミュレーション

次回の記事

エンクロージャーの簡易な検討は終わったので、次回は詳細な設計に入っていこうと思います。

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