トータル特性の測定と試聴 & チューニング | Wavecor & SEASのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回でクロスオーバーネットワークの製作と組み込みが終わりました。今回は組み込み後の最終的な特性を測定し、試聴とチューニングを行います。

Near Field測定でポート長を再調整

エンクロージャー内部にネットワークボードを組み込んだ影響でエンクロージャーの容積が減り、ポートのチューニング周波数が少し変化している可能性があります。またクロスオーバーネットワークの特性による低域の盛り上がりがあった場合にもポート長の見直しは必要かもしれません。

そこでNear Field測定を再度行い、ポート長を検討します。以前の調整で65mmか70mmにするか迷っていたので、その2つに候補を絞って測定します。

以下が測定結果です。結果を見るに65mmでは低域が膨らんでしまっており、70mmにしたほうが全体のバランスがよさそうです。

ポート長 65mm 70mm

70mmの場合は100Hz以下で音圧が下がっていくような状態になってしまっているのでポート出力を少し強めたいとは思います。測定結果からポートからの中高音の漏れは十分に減衰されていることがわかるため少し吸音材を減らし、再測定してポート出力に問題がないことを確認しました。

Far Field測定結果と考察

ポートの調整が終わったので、Far Field測定を行いました。まずはウーファーとツィーターを逆相で接続してReverse Nullの状態を確認します。測定結果を見るにきれいにディップが出ており、クロスオーバー付近での位相が合っていることがわかります。

Reverse Nullの状態を確認

次にドライバーごとの軸上の周波数特性を確認します。ピンク線がLR4での理想的な減衰カーブで、どちらもクロスオーバー周波数の2kHz付近できれいに減衰していることがわかります。

ウーファー ツィーター

ウーファーについてはブレイクアップ部分の帯域の減衰が想定通りにはとれていません。この部分はLPF2段目のコイルに並列にコンデンサを入れてノッチフィルターを形成して抑えているのですがうまく効いていないようです。シミュレーションからは0.1mHのコイルをショートした時に実測値に近づくものの完全な再現には至りません。

単なるショートであればインピーダンス測定のタイミングで気づくと思いますし、クロスオーバー付近の位相がずれるためReverse Nullはあまり出なくなるので、配線の問題ではなさそうです。空芯コイルの線間容量の問題かもしれませんが、インダクタンスの小さいコイルではあるのでここまでの影響が出るものなのかな?とは感じます。

手持ちの他のコイルがなく、現状ではさらなる調査は難しいため、いったんこのままで測定に進みます。アニソンオーディオフェスが終わった後に再度チューニングしてみても良いかもしれません。

ツィーターの方は26kHz付近のピークが残ってしまっています。このあたりは素子の値が想定値からほんの少し動くだけで特性が大きく変わってしまう感じではあったので、これ以上のチューニングは難しいかもしれません。やるとすればもう1段ディッピングフィルターを入れることくらいでしょうか。聴感で気になるということがあれば検討しましょう。

Near Field測定結果とマージした最終的な特性

以前のドライバー単体の測定結果をマージしたときと同じ方法でNear FieldとFar Fieldの測定結果、ディフラクションのシミュレーション結果をマージして最終的な特性を出力しました。

20kHz以上のピークが目立ちますが全体的にはだいたいフラットな特性になりました。10kHz以降が少し落ち気味なので、ここはさらに調整が必要な部分かもしれないです。

DIが3〜4kHzで乱れており、このあたりはおそらくバッフルのディフラクションの影響ではないかなと推測しています。次にこういったスピーカーを作る時は大きく斜めにカットするバッフルを試したいです。

ネットワーク組み込み後の最終的な特性

ネットワーク組み込み後のPolar map

推定Preference Ratingはシミュレーションよりも高い値になり、カスタム式で約6.76という数値になりました。部品の誤差が良い方向に働いたのでしょうか。

ネットワーク組み込み後の推定Preference Rating

試聴とチューニング

ここからは自分の耳で聴きながら細かい調整に入ります。

しばらく聴いて気になったのはボーカル、特に女性ボーカルの高い部分が奥に引っ込んでしまうことです。この時点ではしっかりと測定データを見ていなかったのですが、高域を下げすぎているのが原因と考えて、ツィーターのアッテネータの抵抗を1Ωから0.75Ωに変更しました。

たった0.25Ωの変更ですが先述の問題は聴感上はだいぶ改善されました。後ほどシミュレーションで確かめると下げすぎたと思われる10kHz以上の帯域を最大で1dB程度上げるような変更になっていたようです。時間がなかったので再度の測定はまだ行えていませんが、測定結果はよりフラットに近づいているのではないかと思います。

音の感想としては、楽器の鳴らし分けができて表現力豊かなスピーカーと感じました。低域がやや強調されるため、一部の楽曲では低域がやや支配的でうるさく感じることがありますが、全体的に違和感のないモニタースピーカーのような音の仕上がりになっています。音色は落ち着いており重心が低くしっとりと聞かせ、明るさよりもおとなしい印象です。

おわりに

以前に告知しましたが、アニソンオーディオフェス2023に出展させていただく予定です。古い曲が多いですが試聴曲もようやく決めました。3年くらいの間隔で1曲ずつ選んだので、どれかは聴いたことがある感じの選曲にはなっているのではと思っています。

https://www.audifill.com/event/011_020/event_019_3time.html

このスピーカーの製作はいったんこれで完成となりますが、実際に会場で鳴らして気になる点があればもう少しチューニングを行うかもしれません。他の人の意見も聞きたいので、何か感想あれば教えてください。

製作時間がギリギリだったこともあり、自身もこのスピーカーの音をあまり聴けていない状態ですので、会場で音を聴けることを楽しみにしています。

最終的な仕様

  • エンクロージャー形式: バスレフ型
  • エンクロージャー容積: 6.2L
  • サイズ(幅 * 高さ * 奥行き) : 186mm * 298mm * 220mm (背面コネクタ等は含まず)
  • クロスオーバー周波数:1.9kHz (LR4)
  • ポートチューニング周波数 : 55Hz
  • 使用ユニット
    • ウーファー: Wavecor WF152BD05
    • ツィーター: SEAS 27TBCD/GB-DXT

次回の記事

突貫で作ったネットワークボードを時間をかけて改良を行います。

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