前回の記事でDayton AudioのRSシリーズを使ったマルチウェイスピーカーを検討しましたが、エンクロージャーが想定していたよりも1.5倍近く大きくなってしまう問題がありました。
もう一度強めにブレークインを行ってインピーダンス測定しT/Sパラメータを算出してみましたが、エンクロージャー容積を大きく変えるほどの変化はありません。Dayton Audioのユニットは比較的データシートに近い値になるという話を見たことがあったのですが、何か変わったりしたのでしょうか...
今は大きなエンクロージャーを作る気持ちがあまりないため、いったんDayton AudioのRSシリーズは積みユニットとして次回作以降に持ち越しで、別のスピーカーの検討をしたいと思います。
12cmのウーファーを使った5リットル前後の小型な2wayスピーカーをサブ機として作りたいとは思っていたので、その構成を目指そうと思います。
ウーファーの選択
今回はなるべく小型に作りたいということもありFsが低くQtsが小さめのユニットを選んでいきました。
12cmのユニットはあまり種類もないのですが、選択肢としてあがったのがWavecorのウーファーです。
たまたまセール品を見つけて安かったというのもありますが、WF120BD03を使うことにしました。
http://www.wavecor.com/html/wf120bd03_04_07_08.html
このウーファーはブレークアップの帯域を除くと比較的フラットな周波数特性をもっています。他のWavecorの同サイズのウーファーの特性も確認していますが、他と比べても使いやすそうな特性でした。
Wavecor WF120BD03 midwoofer | HiFiCompass
高調波歪みについて同価格帯のScan-Speak 12W/4524G00と比べると少し低めのようです。
ScanSpeak 12W/4524G00 | HiFiCompass
Wavecorは元Vifaのエンジニアが創業者であり、前作のScan-Speak 2wayの音と似たようなものが期待できるのではないでしょうか。
届いたウーファーはマグネットが大きくて振動板と同じくらいのサイズがあります。磁気回路の強力さに期待ができます。
ウーファーWavecor WF120BD03のT/Sパラメータの算出
早速、届いたウーファーをブレークインしました。30時間程度かけて2.83Vrms・25Hzのサイン波を鳴らしました。
フリーエアと密閉箱に取りつけて、LIMPを使ってそれぞれの状態のインピーダンス測定を行い、その結果からT/Sパラメータを算出します。
パラメータ | ユニットA | ユニットB | データシート(ブレークイン前) | データシート(ブレークイン後) |
---|---|---|---|---|
Fs (Hz) | 68.4 | 70.3 | 70 | (記載なし) |
Re (ohm) | 3.13 | 3.26 | 3.2 | 3.2 |
Qts | 0.40 | 0.42 | 0.42 | 0.37 |
Qes | 0.43 | 0.46 | 0.46 | 0.40 |
Qms | 5.52 | 6.03 | 5.9 | 6.0 |
Mms (g) | 6.12 | 6.23 | 6.55 | 6.55 |
Rms (kg/s) | 0.478 | 0.458 | 0.49 | 0.42 |
Cms (mm/N) | 0.885 | 0.823 | 0.79 | 1.03 |
Vas (liters) | 3.30 | 3.07 | 3.25 | 4.25 |
Bl (Tm) | 4.35 | 4.44 | 4.5 | 4.5 |
全体的にデータシートのブレークイン前の値に近いようです。
データシートのブレークイン後の値は7.75Vrms・20Hzのサイン波を2時間流した後の値のようですので、今回のブレークインは弱すぎた可能性があります。
もう少し強めにブレークインして値が変わるのかを再度測定したいとは思いますが、データシートの値が信用できそうなことがわかったので、設計には入れそうです。
(2022/10/25 追記)
データシートに記載されている方法で強めにブレークインを行って再測定しました。データシートのブレークイン後の結果に近い値が得られました。
パラメータ | ユニットA | ユニットB | データシート(ブレークイン前) | データシート(ブレークイン後) |
---|---|---|---|---|
Fs (Hz) | 66 | 67 | 70 | (記載なし) |
Re (ohm) | 3.06 | 3.15 | 3.2 | 3.2 |
Qts | 0.37 | 0.38 | 0.42 | 0.37 |
Qes | 0.40 | 0.41 | 0.46 | 0.40 |
Qms | 4.47 | 4.75 | 5.9 | 6.0 |
Mms (g) | 5.87 | 6.01 | 6.55 | 6.55 |
Rms (kg/s) | 0.55 | 0.54 | 0.49 | 0.42 |
Cms (mm/N) | 0.99 | 0.94 | 0.79 | 1.03 |
Vas (liters) | 3.68 | 3.49 | 3.25 | 4.25 |
Bl (Tm) | 4.3 | 4.4 | 4.5 | 4.5 |
この測定で得られたユニットA, BのT/Sパラメータの平均値を使って、今後は設計を進めていこうと思います。
ツィーターの検討
次にウーファーに合うサイズのツィーターを検討します。
本ブログでも大変参考にさせていただいている自作スピーカーマスターブックのブログで2Wayスピーカープロジェクト Śiva Projectというプロジェクトがあります。
ウェーブガイドを搭載したツィーターを採用して指向性を整えたきれいな特性が実現されています。ウェーブガイドによる指向性制御は現在のトレンドのようでMJ誌の連載でもそのような作例があります。
そこで今回の小型2wayスピーカーではウェーブガイドを搭載したツィーターを使うことにします。
Visatonなどから販売されている市販のウェーブガイドを後付けして使う手もありますが、どれもサイズが大きくて今回のウーファーのサイズ感に合うものはありません。
ウェーブガイドを搭載したツィーターであればちょうど良いサイズのものがあります。ただ種類が少なくて周波数特性を考慮すると以下の3つのユニットに絞られました。
候補1. Wavecor TW030WA11
https://www.wavecor.com/html/tw030wa11_12.html
30mmボイスコイルを搭載しコーティングされた繊維の振動板を使ったWavecorのツィーターです。
候補2. Dayton Audio ND25FW-4
https://www.daytonaudio.com/product/1280/nd25fw-4-1-soft-dome-neodymium-tweeter-with-waveguide-4-ohm
Śiva Projectで採用されている安価で特性も良いDayton Audioのソフトドームツィーターです。
候補3. SEAS 27TBCD/GB-DXT
マグネシウム/アルミニウム合金を振動板に採用したSEASのハードドームツィーターです。
どのツィーターを選ぶか?
ウーファーと同じメーカーで選ぶならWavecor TW030WA11が良いと思います。しかしデータシート上ではスムーズな特性ではあるのですが、気になるのは以下の記事では軸上の周波数特性に乱れがあることです。
Dayton Audio ND25FW-4もデータシート上は非常にスムーズな特性を実現しています。ただこちらも参考にしたŚiva Projectでは軸上のレスポンスにはウェーブガイドの形状起因の乱れがあると指摘されています。
となると残るは SEAS 27TBCD/GB-DXT です。これは以下の2つの測定記事を見ても可聴帯域外のピーク以外に大きな問題は見当たりません。
これらの比較結果からするとSEAS 27TBCD/GB-DXTが最も良いと思いますが音を聴いたことはないので、メタルドーム特有の響きが気になる可能性はあるという点やウーファーとのキャラクターの違いが出るかどうかは気になってはいます。
以下の書籍ではWavecorの違うユニットを使った作例が紹介させており、その中では柔らい音という評価があります。このユニットもそういう音の傾向ならハードドームのツィーターは音色が合わないかもしれません。
次回の記事
求めたT/Sパラメータから次回はエンクロージャーの詳細な設計を行う予定です。
この時までにツィーターを決めないといけないので、もう少し悩んでみましょう。
SEAS 27TBCD/GB-DXTを選ぶと、以下の構成のミニバージョンといった感じになりそうですね。
この構成を見たときにパッシブラジエーターを使う構成も面白いなと感じたので、それを含めて次の記事で検討してみたいと思います。