VituixCADでクロスオーバーネットワークを設計する | Wavecor & SEASのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回の記事でスピーカーユニット単体の測定データを得ることができました。今回の記事では、得られたNear FieldとFar Field測定のデータからVituixCADを使ってクロスオーバーネットワークを設計します。

Naer Field測定とFar Field測定のデータのマージ

ウーファー側のクロスオーバーネットワークを設計するためにはNaer Field測定とFar Field測定のデータのマージが必要です。Far Field測定での低域の測定限界以下の部分はNaer Field測定にディフラクションのシミュレーション結果を合成したものを切り貼りするようなイメージです。

以前はVituixCADのMergerをそのまま使っていたのですが、そのまま使うと軸外のディフラクションのシミュレーション結果の合成ができないため不正確であるという話を聞いてからは、Mergerで測定角度ごとの特性を1つ1つ合成していたりしました。ただこれだとすべての結果をマージするのに50ファイルくらいを操作しなければならないので大変です。

そこでVituixCADのCalculatorを使って同様の作業を行えるような手順を作ってみました。もしやり方として適切でない部分があれば教えてください。

  1. Mergerを使ってポートとウーファーのNear Field測定の結果に対してAreaまたはDiamを入力して、それぞれのScale dBをメモします。
    MergerでScale dBを取得
  2. Calculatorを起動しScale, Delay, Invert Aを選択し、ウーファーとポートのNear Field測定のそれぞれの測定ファイルに対して先ほどメモしたScale dBを適用します。
    CalculatorでScaleを適用
  3. Diffractionを起動しウーファーの軸上でのディフラクションをシミュレーションして軸外の特性も含めてファイルをエクスポートします。
    Diffractionでウーファーのディフラクションの特性を出力
  4. CalculatorのMultiplyを使ってウーファーのNear Field測定のファイルに上で作成したディフラクションのファイルを合成する。
    CalculatorのMultiplyでウーファーの測定ファイルにディフラクションの特性を合成
  5. CalcuratorのAddで2で作成したポート出力のScale後のファイルと上のディフラクションの特性をマージしたウーファーの特性を足し合わせます。
    CalcuratorのAddでポート出力とウーファー出力を合成
  6. Mergerで上で作成したファイルをLow Partに指定しFar Field Measurementsにチェックを入れてFar Field測定の結果とマージする。
    MergerでFar Field測定の結果とマージ

エンクロージャーに収めたスピーカーユニットのインピーダンス測定も行って、クロスオーバーネットワークの設計に必要なデータが揃いました。

クロスオーバーネットワークの設計

早速ですが完成したネットワーク回路が以下です。約1.9kHzでクロスさせており、スロープはLR4です。

HPFもLPFも基本的には2次のフィルタで減衰は十分なのですが、それだとクロスオーバー付近の位相がうまく合わなかったので両方とも3次のフィルタで構成しています。

完成したクロスオーバーネットワークの回路

周波数特性を整えるためにウーファー側には3つ(左から約8kHz, 約700Hz, 約1kHz)、ツィーター側には2つ(左から約7.8kHz, 約26kHz)のディッピングフィルタが入っています。さらにツィーターのfs付近の音圧を下げるために0.68uFのコンデンサをHPFにパラで入れています。

シミュレーション上の特性は以下のようになっています。推定Preference Ratingは(9)式で約6.2、定数を揃えたカスタム式で約6.5となりました。

シミュレーション上のクロスオーバーネットワーク込みの特性

ツィーターの26kHzのピークが大きくて1つのディッピングフィルターだけでは完全に取り除くことはできませんでした。おおむねきれいにまとまったかなと思いますが、3~4kHzあたりでDIが乱れてしまっているのは課題を感じます。

ネットワークボードの設計

前作と同じくKiCADを使ってネットワークボードのプリント基板を設計します。自分の配線スキルでは手配線できれいなボードを作るのは難しいのと、手配線は時間がかかるので、この製作方法を使うことが多くなってきています。

設計したネットワークボード

もう少しコンパクトにまとめたかったのですが、1つ1つの部品が大きいので2枚のボードに分けざるを得ませんでした。エンクロージャー底面にLPF基板、天面にHPF基板を設置することになると思います。

前作は基板がエンクロージャー底面の大きさと同じくらいで、スピーカーユニットを取り外さないとネットワークボードが取り出せないという状態でした。そのため細かいチューニングがしずらかったのです。

今回はその反省を生かしてスピーカーユニットに重なる部分が発生しないように設計しました。それもあって2枚に分けざるを得なかったというのもあります。

次回の記事

ネットワークボードとなる基板が届いたら早速製作に入ります。組み上がったらインピーダンス測定を行って、正しく組み上がっているか検証します。

告知

このWavecor & SEASのユニットを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーですが、アニソンオーディオフェス2023に出展させていただく予定です。

https://www.audifill.com/event/011_020/event_019_3time.html

当方が遠方のため現地には行けないとは思いますが、もし当日に試聴された方がいらっしゃいましたら感想を教えていただければ幸いです。残り時間は少ないですが、がんばって仕上げていきたいと思います。

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