
本記事では、T/Sパラメータの測定結果からバスレフ型エンクロージャーの容積・ポート設計までを解説します。ポートのフレア形状についても論文をもとに検討しており、ポート設計に迷っている方にも参考になるかと思います。
前回の記事でスピーカーユニットの選定が終わりました。
今回はウーファーのWavecor WF152BD05のT/Sパラメータからバスレフ型エンクロージャーを設計します。
T/Sパラメータの測定
LIMPを使ってWavecor WF152BD05のインピーダンスを測定し、デルタコンプライアンス法でT/Sパラメータを算出します。


計算されたT/Sパラメータを以下に示します。表を見る限りではデータシートの値に近いものの、どちらかといえばブレークイン前のものに近い値になりました。
| パラメータ | ユニットA | ユニットB | データシート(ブレークイン前) | データシート(ブレークイン後) |
|---|---|---|---|---|
| Fs (Hz) | 50.2 | 48.4 | 50 | 44.5 |
| Re (ohm) | 3.3 | 3.26 | 3.2 | 3.2 |
| Qts | 0.35 | 0.33 | 0.33 | 0.29 |
| Qes | 0.37 | 0.34 | 0.34 | 0.30 |
| Qms | 10.57 | 10.34 | 10.3 | 8.2 |
| Mms (g) | 12.82 | 13.00 | 13.5 | 13.5 |
| Rms (kg/s) | 0.39 | 0.38 | 0.41 | 0.46 |
| Cms (mm/N) | 0.79 | 0.83 | 0.75 | 0.94 |
| Vas (liters) | 9.54 | 10.18 | 9.2 | 11.5 |
| Bl (Tm) | 6.03 | 6.12 | 6.35 | 6.35 |
ブレークインが足りていないのかと思い、24時間→48時間→電圧を8Vに上げて3時間と段階的に測定してみましたが、いずれも値に大きな変化は見られませんでした。
AとBの間に若干の差があるため、どの値を使うべきか悩みますが、以降はデータシートの値に近いBの方の値を用いています。
エンクロージャーのシミュレーション
バスレフ型のシミュレーション
求めたT/Sパラメータから前回の記事の通り6L程度のバスレフ型エンクロージャーを設計します。
当初はデータシートのブレークイン後のT/Sパラメータの値をもとにシミュレーションしており、ネットワーク抵抗0.6Ω程度で低域がフラットな特性が得られる設計でした。しかし測定結果がブレークイン前の値に近かったため、ポート長などを調整する必要がありました。
ポート長はチューニング周波数・ポート断面積・エンクロージャー容積から計算で求めることができます。結果としてネットワーク抵抗は0.4~0.5Ωへ、ポートのチューニング周波数も53Hzから50Hzへと変更です。ポート長が少し長くなるため、気柱共鳴の周波数の変化を考慮してポート直径を28mmに絞りました。もしポートにフレア形状を採用する場合は実効長の扱いに注意が必要で、組み込み後にNear Field測定を用いて調整します。
なお定在波などの検討結果からエンクロージャー容積を少し増やして6.2Lにしています(詳細は後述の定在波シミュレーションを参照)。

f3: 60.8 Hz f6: 49.7 Hz f10: 41.2 Hz GDmax: 9.7 ms @ 34.6 Hz XmaxC: 5.4 mm @ 5 Hz VmaxR: 14.1 m/s @ 37.8 Hz
1作目と比較してもf6や群遅延が小さくできており、期待が膨らみます。一方で、コイルのDCRが大きくなるとフラットな特性が得られにくくなるようで、クロスオーバーネットワークを設計する際には注意を払う必要がありそうです。
ディフラクションのシミュレーション
エンクロージャー容積が決まったため、次にバッフル板のサイズやスピーカーユニットの取り付け位置を確定するためにディフラクションのシミュレーションを行います。
ディップが1dB程度におさまるように、ツィーターの位置をずらしながら検討した結果、幅186mm 高さ298mmのバッフル板としました。角は10mm丸める設定でシミュレーションしています。

ウーファーについても同様の検討を行います。ウーファーが下部中央付近に位置するため3KHz付近の乱れが生じています。気になる点ではありますが、クロスオーバー周波数を低めに設定することで影響を抑えられると考えています。

定在波のシミュレーション
容積とバッフルサイズはこれで決まったので、残るは定在波のシミュレーションです。3方向の定在波のピークがずれるように3辺の長さを調整します。
前回の記事でも述べたようにポートの気柱共鳴についても定在波のピークがない部分に位置するようにします。多少のポート長の調整があるかもしれないので、その周辺は余裕をもって避けておきます。
高さ方向の2次の定在波が少し近いですが、これはポート位置を高さ方向の1/4の位置に設定することで軽減できると考えています。

エンクロージャーの設計
前作では板厚15mmとしたところ、大きめの音量では触ると板が震えているのがわかるレベルでした。これでは箱鳴りが気になりそうなので、今作では板厚18mmとして、さらに上板にも補強を追加する形にしてみました。
バッフル板のエッジについては、幅や高さの制限で大きなフィレットを入れることができなかったので、面取りを試します。
背板は取り外せる構造としており、ネットワークボードやバスレフポートのメンテナンスがしやすくなっています。

フレア形状のバスレフポートの設計
前述した通りポート径を28mmと振動板面積に対して小さめの値にしているので、ポート内の空気の流速が速くなります。流速が大きくなると乱流が発生しノイズが生じることが知られており、その対策としてポート形状をフレア状にすることが効果的と知られています。
参照した文献にはフレアの具体的な寸法について記載がなく、ポートを自作する際に少し困りました。そこでいくつか論文を読みながら検討しました。
まずフレアの大きさについては「Maximizing Performance from Loudspeaker Ports」 Salvatti, Alex; Devantier, Allan; Button, Douglas J. (2002)を読むとポート長と同じ半径を持つ円状にフレアを広げるのが最もバランスが良いと書かれています。またフリンジを内側にもつけることでポートの対称性が確保されて高調波歪みの改善につながるとされています。
これらを採用することにしましたが、この形の問題はポート長の調整が難しいことです。ポート長を調整するにはその長さのポートをいくつも製作しなければなりません。Precision Portのように真ん中のパイプ部分だけ交換できれば良いのですが、パイプ部分が長くなるとフレア部分が短くなり特性に影響が出るかもしれません。
その疑問点について実験してくれていたのが「Maximizing Bass Reflex System Performance Through Optimization of Port GeometryOptimization of Port Geometry」 Bryce Doll (2020)です。
この論文ではポート中央のストレート部分の長さが特性に与える影響を調査しており、ストレート部分が短ければ特性への影響は小さいが、長くなるとフレアの効果がやはり小さくなることを示しています。
上記2つの論文からストレート部分を最小限にしつつ、長さは多少調整できるフレア付きポートを製作したのが以下です。接続部に内径が同じパイプを入れることで長さの調整が可能となっています。


次回の記事
エンクロージャーの木材が届くまでもう少しかかりそうですが、次回は組み立ての記事になる予定です。