前回の記事の電源基板の出力ノイズを測定した時に値が非常に低いのが気になっていたので、原因の調査と再評価を行いました。
また良い機会なので、製作中のTPA6112を使ったヘッドホンアンプとLM3886を使ったパワーアンプで、トランス電源との聴き比べも行って今後も採用していくべきかを検討します。
原因の調査と改善
前回の記事で紹介した測定用のnabeさんの差動プリアンプですが、自分の実装方法に問題があったのか数mV程度の発振が出ていたようです。その影響で最終的な出力レベルが下がってしまっており、実際の値よりも低い結果となったみたいです。
また自分の手持ちのオシロスコープはプローブ倍率をx1未満に設定することができないため、値が実際の値を示しておらず直感的でないという問題点もありました。
そのため以下の対策を実施します。
- 前段のLTC6405の発振対策: 帰還抵抗に9pFのセラミックコンデンサを追加。
- データシートを見る限りでは数pFで良いようでしたが、手持ちの関係でこの値に。
- 前段のゲインを下げるために帰還抵抗を1kΩに変更。
- 後段のLMH6629の負荷抵抗を9kΩ(18kΩ*2並列)に上げて発振を抑える。
- 出力抵抗の出力側-GND間に分圧抵抗1kΩを入れて1/10に出力を落とす。
- 前段のゲイン変更と合わせてこれで1倍の値になります。
上記のことを行った結果、発振がおさまって安定的に測定ができるようになりました。
また以前の状態ではBNCケーブルでオシロスコープと直接接続した場合とプローブを通した場合で出力ノイズに差が出る状態だったのですが、分圧抵抗を入れた結果、そのようなことも起きなくなりました。
DC/DCコンバータ電源基板の再評価
測定環境が整ったのでDC/DCコンバータ電源基板を再度評価し直していきます。DC/DCコンバータはTDK-LambdaのCC10-1212SF-Eを使っています。
固定の抵抗を負荷として120mA程度電流を流したときの出力ノイズから測定します。
まずはDC/DCコンバータの出力に22uF+0.1uFのコンデンサを入れた状態の出力ノイズです。
DC/DCコンバータのスイッチング周波数である500kHzでリプルがのっています。
この出力をムラタBLM18Pフェライトビーズ(470Ω)をV+, GNDライン両方ともに通した出力ノイズが以下です。
リプルがなくなり、全体のノイズもかなり小さくなりました。
さらにLCフィルタ回路でノイズが低減できるか確認するために100uH+4.7uFのフィルタ回路を製作しました。
全体のノイズレベルは数mVp-p下がったものの、聴感上わかるかどうか怪しいレベルです。
次に負荷過渡応答を見るために、製作中のLM3886パワーアンプに10kHzの矩形波を入力して約2Vp-pの出力が得られた時の電源電圧の変動を測定しました。
赤のラインが出力で黄が電圧変動を示しています。負荷に応じて60mVp-pの変動があることがわかります。
もう少し変動を小さくするには定電圧回路などを組み込めば良いのですが、製作中のLM3886パワーアンプは測定用に持ち運べるよう小型化するという目標があります。そのため簡易な回路しか組み込むスペースが残っていません。
そこで先ほどの差動プリアンプでもお世話になったnabeさんが設計されたトランジスタ式簡易レギュレーター - nabeの雑記帳を見つけました。回路は非常にシンプルで細長い基板に組み込むことができました。
トランジスタは手持ちの関係で2SC3422と2SA1359を使いました。この回路は負帰還がかかっているわけではないので負荷に対するレギュレーションはあまり高くはないとは思いますが、結果はどうでしょうか。
先程のLCフィルタ回路を取り外し、かわりに製作したレギュレーター回路を入れて測定します。
結果としては1/3程度まで電圧変動を抑えることができました。
製作中のLM3886パワーアンプに取り付けて試聴してみたところ、聴感としてもLCフィルタ回路では高音域の金属音にのる付帯音が気になっていましたが、このレギュレーター回路を入れることでそのような音がなくなり透明度が増しました。
出力電流を1A程度まで取り出してもトランジスタの発熱は小さく、問題なく実用できそうなレベルです。
トランス電源との聴き比べ
製作したDC/DCコンバータ基板を今後採用していくかを判断するためにトランス電源との聴き比べを行います。
TPA6112を使ったヘッドホンアンプの構成
いつもお世話になっているお気楽オーディオキットさんのところのHPA6120を組み立てています。
その電源には前回の記事で紹介した定電圧基板を使っています。
ここに以下の2つのパターンで電源を接続して比較しました。
トランス電源の方は定電圧回路を2段挟むような構成になってしまっているので、公平な比較ではないかもしませんが、ご了承ください。
LM3886を使ったパワーアンプの構成
以前の記事で製作したLM3886とLM1972を使ったプリメインアンプを製作 - 工作とかオーディオとかと製作中のものとの比較です。
製作中のものは本記事中のDC/DCコンバータ+トランジスタ式簡易レギュレーターを電源としています。
聴き比べた感想
ヘッドホンアンプとパワーアンプそれぞれのパターンで聴き比べた感想をまとめました。
結論としては、どんな音楽でもそつなく鳴らせるのはDC/DCコンバータ電源で、トランス電源は安定化回路をもう少し吟味しないと持ち味を活かせない感じがありました。
DC/DCコンバータ電源
- クリアで明るく、音の情報量が多く感じる。
- 低音のアタックが軽く、沈み込みが小さい。
- DC/DCコンバータ電源を直接接続すると金属音の響きに付帯音がある。
トランス電源
- 低音がふくよかでアタックが強い。ただ勢いという感じは弱い。
- 音の解像度は定電圧回路に依る。個人的には非安定化電源のLM3886アンプの方がトランス電源ではクリアな音に聴こえた。
- 低音域が強く聞こえるため音源によっては、もわっとした感じになってしまうことがある。
おわりに
DC/DCコンバータ電源はトランス電源と比較しても負けず劣らずの音質で、コンパクトなオーディオを製作していきたい自分としては機器が小型化できるメリットは大きいと感じました。
今後しばらくはこの電源を使って機器の小型化を図っていこうと思います。
改良版
基板を改良したバージョンを製作しました。