以下の記事でDC/DCコンバータを使った電源回路を製作しました。この電源回路は機器の小型化に役立ちそうですが、音質上の問題がないかどうか気になるところです。
そこで電源回路の違いが聞き取りやすいと感じるヘッドホンアンプを製作して試聴してみることにしました。
またこれまで作ってきたDACなどで得た(見た目上の)デザインの知見から、こだわったケースデザインにしてみます。
チップ部品をDIP化する基板の製作
ところで近年はDIP部品も少なくなっており、巷で音質の良い部品と言われているものもチップ部品であることが増えました。
そこでチップ部品をDIP部品として使えるように変換基板を簡単に作ってみました。
ユニバーサル基板で作ることも可能ですが、こうして基板化しておくとパッと使えるので便利ですね。
全体の構成
全体は以下の4つから構成されています。
- お気楽オーディオキット HPA6120
- ヘッドホンアンプICにTPA6120A2、電子ボリュームにLM1972を採用したアンプ基板です。
- お気楽オーディオキット リレー切替え基板
- 入力セレクターとして使います。
- DC/DCコンバータを使った電源基板と定電圧出力基板
- こちらは以前の記事に書いたものをそのまま使っています。
HPA6120基板の詳細
他の3枚は記事化済みだったり特段述べることもないため、この1枚だけ詳細を書きます。
- 帰還抵抗は基板のマニュアルには10kΩが指定されていますが、TPA6120A2のデータシートを見ると基本的には1kΩ以下、特に820Ωが推奨されていたのでその値に変更しています。
- この変更で聴感上のホワイトノイズが減り、聞き取ることができないレベルになりました。
- カップリングコンデンサは前述したDIP化基板を使ってPMLCAPを実装しています。
- LM1972の電源としてLT3045, LT3094を使った定電圧基板を使っています。
- もう頒布は終了していますがやなさんが作っていらっしゃった基板です。
- デカップリングコンデンサには、タンタルコンデンサに小容量の積層セラミックコンデンサを並列に接続しています。これにも自作のDIP化基板を使っています。
- このコンデンサの値の設定には DACのアナログ追求⑧コンデンサその2 : 通電してみんべ の記事を参考にさせていただきました。
いろいろ細かい基板を追加した結果として雑然としてしまっています。DIP化基板はもうちょっと構成を考える必要ありそうですね。
オペアンプの聴き比べ
LM1972のバッファアンプとして入っているオペアンプですが、交換すると意外と音の差があるとわかったので聴き比べを行ってみました。
試したのは以下のオペアンプです。LM1972はバッファアンプにはJ-FET入力のオペアンプが指定されているので、J-FET入力のもののみ試しています。
- OPA2134
- MUSES8920
- OP275
- LME49720
- OPA2604
- THS4601 (デュアル化基板を使用)
- OPA1622
- OPA828 (デュアル化基板を使用)
- MUSES01D
個人的に好みだったもの(A)〜好みではなかったもの(D)までに分けました。あくまでこのシステムと個人の感想ですが、感じたことと合わせて記述します。
ランク | 型番と感想 |
---|---|
A | - MUSES01D : 解像度が高く様々な音が分離されてはっきり聞こえる。帯域は低域から中域まで出ているものの、高域が控えめなのか鮮やかさが足りない感じがある。ゆったりとしており聴き疲れにくい音。 - THS4601 : クリアな音質でバランスの良く、音の分離が良く解像度が高い鳴り方。色付けは少ないが、少し聴き疲れする。ボーカルは少し奥まるが実在感が感じられる。低域は軽いが勢いはある。 |
B | - LME49720 : バランスが良く満遍なく良い鳴り方をする。分解能も高いが平面的に聞こえることがある。 - MUSES8920 : やや明るめの音。ふわっとした感じがあり、それが楽しくもあり不明瞭とも言える。若干ボーカルが奥まって聞こえるが、低音はよく沈み込む。音楽を聴かせる音。 |
C | - OPA1622 : バランスは良くボーカルが目立つが、全体的に遠くで鳴っている感じがある。 - OPA2134 : アタックが強く、メリハリが効いている。ボーカルは弱いという感じがするが、それ以外が強い感がある。 - OPA828 : 低音域があまり出ずアタックが弱い。それ以外のバランスは良くて解像度が高い。 |
D | - OPA2604 : ハリが強い音。一聴するとバランスが良いが、ボーカルもあまり前に出てこないのと曇りがある。 - OP275 : 低音が強調されて聞こえて音の分離が悪い。 |
正直なところA, Bランクのあたりは僅差で悩んだのですが、長時間聴いていて聴き疲れしない点と解像度の高さを評価してMUSES01Dにしました。
高速オペアンプであるTHS4601は出力波形に発振がないかは確認して無かったものの、低域の軽さが気になりました。軽微な発振が残ってしまっていたならZobelフィルタなどを試すべきなので、そのあたりは今後試せたらいいなと思います。
THS4601のデータシートを見ると、ソケット使わない & 6.8uFのデカップリングコンデンサを近くに配置すべきと書かれていることから、そもそも真価を発揮できない条件であった可能性があります。悪条件でもかなり良かったので条件を整えればもっと良くなるかもしれません。
7セグLED基板を加工
ボリューム値表示にはHPA6120基板のオプションである7セグLEDの基板を使っています。7セグLEDは厚みがあるので取り付けには若干の工夫が必要です。
また本作はフロントパネルをすっきりさせるためにフラットな面にしたいと思っています。フラットな面にするにはこの7セグLED基板をうまく取り付ける方法を考える必要があります。
そこで基板サイズに合うスペーサーを3Dプリントで製作してツバのところをねじ止めする方法をとることにしました。
これをケースに取り付けていきます。
ケース加工
今回のケースもお気に入りのタカチHITアルミニウムケースです。横幅17cmの正方形に近い形のHIT17-6-18BBを使いました。
いつもシルバーを使っていますが、ヘッドホンジャックのプラスチック部分が黒で統一感を持たせたかったので、ケースもブラックを選択しました。
本作では本格的な見た目を目指したいので、パネルの加工は自分で行わずmeviyで発注しました。
リアパネルは1枚板ですが、フロントパネルの方は2枚重ねとしています。これは以下の理由からできてしまう凹凸を無くして、フラットな見た目にするためです。
- タカチHITケースはパネルが少しケース内側に入るような設計になっており、フロントパネル全体が奥まった位置になってしまう。
- ヘッドホンジャックはパネル取り付けのツバがついているので、その部分が出っぱってしまう。
- ボリュームなどのツマミは少し落とし込み加工されているような状態の方が隙間が小さくなる。
パネルにはレタリングシートを使って文字を入れました。これだけでだいぶ本格的な見た目になります。レタリングシートだけでは貼り付け強度が出なかったので水性のつや消し透明色のアクリルラッカーをかけて固着させました。
底板は通気穴を開けたかったのでケースに付属の板は使用せず、PCBWayに発注しました。この板をmeviyに発注しなかったのは長穴が多くなるとmeviyは価格が高くなってしまうためです。
皿穴の加工や追加の穴開けを自分で行ってケース加工はこれで完了です。
ケースへの基板の組み込み
各基板をケースへ固定していきます。ケースへの固定は横着してタカチの両面テープ付きのポストを使いました。
仕切り板を1枚設けてそこに追加の基板を固定しています。
思っていたよりもパネルとの配線が多くてごちゃごちゃしてしまいましたが、パネルの配線も終えて完成です。
完成した姿
これまで製作してきたDACやアンプの中では一番気に入ったデザインになりました。ネジも含めてフラットな見た目にしたのが良かった点だと思います。
おわりに
非常にクリアな音で心配していたノイズはまったく聴こえません。DC/DCコンバータを使った電源は十分実用に耐えそうです。
また良いデザインのケースになったので、今後の作品はこれをベースに作っていこうと思います。
改良編
気になった問題を改良したバージョンを製作しました。