工作とかオーディオとか | 測定で作る自作スピーカー製作記

測定とシミュレーションで作る、自作スピーカー設計・製作記

デスクトップサイズのパッシブラジエーター搭載2wayスピーカーの製作

以前に製作したパッシブラジエーター搭載のデスクトップ小型2wayスピーカーですが、クロスオーバーネットワークを変更して再測定したところ、シミュレーション結果と乖離があり、そのまま調整を中断していました。

今回、モチベーションを上げるためにツィーターを変更し、全体を再構築することにしました。

過去記事の一覧はこちらです。

使用するスピーカーユニット

新しく採用したツィーターは Wavecor TW030WA09 です。以前に他の作例で試したものの、思うような特性が得られずに余っていたユニットですが、今回あらためて組み合わせることにしました。

http://www.wavecor.com/html/tw030wa09_10.html

ウーファーは変更せずにWavecor WF120BD03を使います。このユニットの選択理由はこちらをご覧ください。

エンクロージャーの改造

設計の経緯については過去の記事をご参照ください。

ツィーター交換のため、ホールソーで内径を拡張。外径は一般的な104mmのため、追加加工は最小限で済みました。

また、前回の塗装でウレタンニスがムラになっていた箇所をヤスリで修正し、再塗装を実施しました。

ツィーターの交換と塗装のやり直し

加えて、以前から気になっていた群遅延の大きさも見直しました。60Hzで15msを超えており、もう少し改善が必要と感じていました。

シミュレーション上では容積を減らすことで、特性は維持しつつ群遅延を少し改善できそうです。

以前にアルミ板を使った補強を行なっており、エンクロージャーの容積は設計時より減っています。

さらに背板を変更し、中央部分を2枚重ねに変更することで内容積を減らすことにしました。板厚が薄く鳴ってしまっていた部分だったので、補強も兼ねた一石二鳥な改造です。

容積を減らすために製作した背板

Near Field測定

パッシブラジエーターの調整のため Near Field 測定を行いました。

重り0gの状態では -6dB 点は約60Hz。12cmウーファーとしては妥当な結果だと思います。

重りが0gの時の合成特性

70Hz付近に小さなピークがありますが、クロスオーバーの影響で100〜200Hzが少し膨らむと予想されるため、この程度なら許容範囲と判断しました。

Far Field測定

続いてFar Field測定を用いて軸上および軸外の特性を得ます。

ウーファーは3kHz付近までは素直な特性ですが、4kHz以降で大きなブレイクアップが出ています。

ウーファーのFar Field測定結果

ツィーターは4kHz付近にディップがあるものの、それ以外は比較的素直で、軸外特性もきれいにまとまっています。

ツィーターのFar Field測定結果

クロスオーバーネットワークを設計

測定結果とインピーダンスをもとにクロスオーバーネットワークを設計します。

各ユニットのDIを比較すると4kHz付近までは一致しており、クロスオーバー周波数はそれ以下になると判断。双方で3~4kHz付近はDIが落ち込んでしまっているので、そのあたりをうまく処理する必要がありそうです。

各スピーカーユニットのDI(実線:ウーファー、鎖線:ツィーター)

測定結果をもとにクロスオーバーネットワークは、クロスオーバー周波数3kHzでスロープLR4として設計しました。

ツィーター側は3次HPFにアッテネーターという構成で、1kHz以下を落とすためにノッチフィルターを1つ入れています。

ウーファー側は4次LPFにノッチフィルターを2つ組み合わせました。2段目のコイルに並列で入っているのがブレイクアップ付近の帯域を落とすためのフィルター、最後のノッチフィルターは1kHz付近を落とすためのフィルターです。

クロスオーバーネットワークの回路図

シミュレーション上の特性は以下で、PIRを整えることを重点を置きつつ指向性を整えました。PIRだけを見ればクロスオーバー周波数を下げた方が良いのですが、先述した3~4kHz付近のDIの落ち込みが強くなってしまいます。その落ち込みの少なかった3kHzを採用しました。

ネットワークを入れたシミュレーション上の特性

クロスオーバー付近の各ドライバーの位相は一致しており、深いReverse Nullが出ています。

シミュレーション上のReverse Null

ネットワークボードの設計

ツィーター側は既存基板を流用、ウーファー側は新規設計としました。

以前はエンクロージャー底部にギリギリ収まる設計で、ネットワークボードを取り外すには一度ウーファーを取り外す必要があり取り回しが悪かったため、今回は干渉しないサイズに見直しました。

ウーファー側のネットワークボードの設計

L1とL2の磁場の干渉が多少気になりますが、ボードサイズの制限もあってこの配置となりました。

コイルはどれも小さめの値なので空芯コイルとし、コンデンサも基本的にフィルムコンデンサを採用します。ノッチフィルタには値の大きいコンデンサが必要なので電解コンデンサを使いますが、フィルムコンデンサを並列で入れています。

ネットワークボードの製作

発注した基板が届き、組み立てました。新規に設計した部分も特に問題なく実装できました。

LPF側のネットワークボード

HPF側は過去の作品から流用した基板のため取り付けがやや雑になっていますが、動作に問題はありません。

HPF側のネットワークボード

完成したボードを組み込み、インピーダンス測定を行います。測定結果をみるとHPF側はシミュレーションとほぼ一致していますが、LPF側は高域で少し乖離があるようです。

ネットワーク組み込み後のインピーダンス測定

LPF側には14AWGの空芯コイルを使っており、線間容量の影響で高域のインピーダンスが下がっている可能性があります。これがクロスオーバー付近の位相に影響しそうなので、この点は今後のブラッシュアップ課題です。

完成

パッシブラジエーターが映える姿に仕上がりました。赤い筐体と黒いユニットのコントラストも美しく、ようやく形になったと思います。

完成したスピーカー

次回の記事

次回は、実際に音を聴きつつ調整して、最終的な特性を測定したと思います。

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