スピーカーユニットの選定とエンクロージャーの検討 | Wavecor FR085CU03を使った3wayスピーカーの製作

前作のWavecor & SEASのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカーは昨年末のアニソンオーディオフェス2023に出展したところ、「勢いがありソリッドな低音」「すっきりとしてクリアな中高音」「位相の合った違和感のないクロスオーバーでフルレンジのような音」「どの曲も破綻なく鳴らし切る」といったようなコメントをいただきました。少しウーファーの癖が強すぎたかなという感じがあったり、インピーダンスが低くてアンプに負荷がかかる問題があったりしますが、全体としては期待値よりも上振れした完成度のものができてよかったです。

2wayのバスレフ型については、前作で現状できることはすべてやってしまったので、新しく作っても大きな改善はできなさそうです。そこで今回はこれまで作ったことがなかった3wayスピーカーに挑戦してみたいと思います。

ミッドレンジの選定

これまでの作品でWavecorのユニットをよく使っており、その出音も好みです。2023年のONTOMO MOOKの付録が同社のスピーカーユニットということで早速購入しました。

Wavecor FR085CU03

www.ongakunotomo.co.jp

この FR085CU03 を使って新作を作ろうと思っていたのですが、表紙に書いてあるT/Sパラメータからも察することができるように、フルレンジとして使ってもそのままでは低域をフラットに伸ばすことは難しそうです。記載されていた周波数特性を見ても4kHz以降は音圧が下がっており、高域側もフルレンジとしては少し使いにくそうに感じます。

そこでこのドライバーをミッドレンジとして使って、前作と同じくらいの大きさ(幅15cm / 高さ30cm / 奥行き25cm 程度)にまとめたコンパクトな3wayを作ってみようと思いました。

ツィーターの選定

ミッドレンジがWavecor製ということで、音色に統一感が出るように同社のドライバーから選定します。同社のツィーターには口径が22mmと30mmのラインアップがありますが、今回はミッドレンジが6cmと小径なため、クロスオーバーは高めに設定することになるだろうという予想から22mmのものを選択します。

高さを30cm程度に抑えたいと思っているので、12cmのウーファーを使ったとしてもツィーターの外径が104mmだと入りません。そこでTW022WA09という外径が70mmのものを使うことにしました。

Wavecor TW022WA09

https://www.wavecor.com/html/tw022wa07_08_09_10.html

データシートの特性を見る限りでは軸外の特性も良さそうで、軸上も20kHzまで伸びています。

ウーファーの選定とT/Sパラメータの算出

ミッドレンジがアルミコーンということでハード系の振動板を使ったウーファーの方が音色が揃って良いかもと感じました。Wavecor製のウーファーを採用しようかと思っていたのですが、同社のドライバーには金属コーンのラインナップはありませんので他社のドライバーを検討します。

エンクロージャーサイズからは12cmのドライバーでないとおさまりません。ちょうどセールで買ったSB Acoustics SB12CACS25-4が手元にあったので、このドライバーが使えないか確認してみようと思います。

sbacoustics.com

48時間程度25Hz 2.83Vrmsのサイン波を流してブレークインを行い、インピーダンス測定を行いT/Sパラメータを算出します。SB AcousticsのドライバーはデータシートのT/Sパラメータから結構ずれるようなので心配しましたが、想定内の値が出ました。

パラメータ ユニットA ユニットB データシート
Fs (Hz) 52.4 52.4 51
Re (ohm) 3.14 3.1 3.1
Qts 0.35 0.34 0.31
Qes 0.38 0.36 0.33
Qms 4.93 5.00 4.89
Mms (g) 5.18 5.18 6.1
Rms (kg/s) 0.35 0.34 0.4
Cms (mm/N) 1.78 1.78 1.60
Vas (liters) 6.28 6.29 5.7
Bl (Tm) 3.77 3.84 4.3

ミッドレンジのドライバーよりウーファーの方がSPLは2dB高いですが、ミッドレンジ側はバッフルステップでの音圧の上昇があるので問題ないかなと思っています。

エンクロージャーの検討

全体の大きさが幅15cm、高さ30cm、奥行き25cm程度を想定しているため板厚18mmを引くと容積は約6.5リットルとなります。1リットルくらいは内部の仕切りやネットワークボードで減ることを考えると5.5リットル程度の容積をミッドレンジとウーファーで分割することになりそうです。

ミッドレンジのエンクロージャー

ミッドレンジは低域を伸ばす必要がないため小型の密閉型にするのが良いでしょう。軽くブレークインを行い、T/Sパラメータを算出してみるとQtsが1.05とデータシートより高い値となりました。

シミュレーションしてみると少し低域が盛り上がりますが、1.5リットルくらいの容積があれば400Hzくらいまではおおむねフラットにできそうです。

FR085CU03のエンクロージャーシミュレーション

ウーファーのエンクロージャー

ウーファーのエンクロージャーについてはなるべく低域を低いところまで伸ばしたいためバスレフ型にしましょう。3wayということでクロスオーバー周波数を低くとることができるため、気柱共鳴などをあまり気にしなくて良い点は設計が楽です。

ミッドレンジに割り当てて残る容積は4リットル程度ですので、その条件でシミュレーションします。コイルのDCRを0.4Ωとして設定した条件だとFbを54Hzくらいに設定するのがよさそうです。群遅延も50Hzで10ms以下に抑えられており、問題なさそうです。

SB12CACS25-4のエンクロージャーシミュレーション

次回の記事

エンクロージャーの簡易な検討は終わったので、次回は詳細な設計に入っていこうと思います。

トータル特性の測定と試聴 & チューニング | Wavecor & SEASのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回でクロスオーバーネットワークの製作と組み込みが終わりました。今回は組み込み後の最終的な特性を測定し、試聴とチューニングを行います。

Near Field測定でポート長を再調整

エンクロージャー内部にネットワークボードを組み込んだ影響でエンクロージャーの容積が減り、ポートのチューニング周波数が少し変化している可能性があります。またクロスオーバーネットワークの特性による低域の盛り上がりがあった場合にもポート長の見直しは必要かもしれません。

そこでNear Field測定を再度行い、ポート長を検討します。以前の調整で65mmか70mmにするか迷っていたので、その2つに候補を絞って測定します。

以下が測定結果です。結果を見るに65mmでは低域が膨らんでしまっており、70mmにしたほうが全体のバランスがよさそうです。

ポート長 65mm 70mm

70mmの場合は100Hz以下で音圧が下がっていくような状態になってしまっているのでポート出力を少し強めたいとは思います。測定結果からポートからの中高音の漏れは十分に減衰されていることがわかるため少し吸音材を減らし、再測定してポート出力に問題がないことを確認しました。

Far Field測定結果と考察

ポートの調整が終わったので、Far Field測定を行いました。まずはウーファーとツィーターを逆相で接続してReverse Nullの状態を確認します。測定結果を見るにきれいにディップが出ており、クロスオーバー付近での位相が合っていることがわかります。

Reverse Nullの状態を確認

次にドライバーごとの軸上の周波数特性を確認します。ピンク線がLR4での理想的な減衰カーブで、どちらもクロスオーバー周波数の2kHz付近できれいに減衰していることがわかります。

ウーファー ツィーター

ウーファーについてはブレイクアップ部分の帯域の減衰が想定通りにはとれていません。この部分はLPF2段目のコイルに並列にコンデンサを入れてノッチフィルターを形成して抑えているのですがうまく効いていないようです。シミュレーションからは0.1mHのコイルをショートした時に実測値に近づくものの完全な再現には至りません。

単なるショートであればインピーダンス測定のタイミングで気づくと思いますし、クロスオーバー付近の位相がずれるためReverse Nullはあまり出なくなるので、配線の問題ではなさそうです。空芯コイルの線間容量の問題かもしれませんが、インダクタンスの小さいコイルではあるのでここまでの影響が出るものなのかな?とは感じます。

手持ちの他のコイルがなく、現状ではさらなる調査は難しいため、いったんこのままで測定に進みます。アニソンオーディオフェスが終わった後に再度チューニングしてみても良いかもしれません。

ツィーターの方は26kHz付近のピークが残ってしまっています。このあたりは素子の値が想定値からほんの少し動くだけで特性が大きく変わってしまう感じではあったので、これ以上のチューニングは難しいかもしれません。やるとすればもう1段ディッピングフィルターを入れることくらいでしょうか。聴感で気になるということがあれば検討しましょう。

Near Field測定結果とマージした最終的な特性

以前のドライバー単体の測定結果をマージしたときと同じ方法でNear FieldとFar Fieldの測定結果、ディフラクションのシミュレーション結果をマージして最終的な特性を出力しました。

20kHz以上のピークが目立ちますが全体的にはだいたいフラットな特性になりました。10kHz以降が少し落ち気味なので、ここはさらに調整が必要な部分かもしれないです。

DIが3〜4kHzで乱れており、このあたりはおそらくバッフルのディフラクションの影響ではないかなと推測しています。次にこういったスピーカーを作る時は大きく斜めにカットするバッフルを試したいです。

ネットワーク組み込み後の最終的な特性

ネットワーク組み込み後のPolar map

推定Preference Ratingはシミュレーションよりも高い値になり、カスタム式で約6.76という数値になりました。部品の誤差が良い方向に働いたのでしょうか。

ネットワーク組み込み後の推定Preference Rating

試聴とチューニング

ここからは自分の耳で聴きながら細かい調整に入ります。

しばらく聴いて気になったのはボーカル、特に女性ボーカルの高い部分が奥に引っ込んでしまうことです。この時点ではしっかりと測定データを見ていなかったのですが、高域を下げすぎているのが原因と考えて、ツィーターのアッテネータの抵抗を1Ωから0.75Ωに変更しました。

たった0.25Ωの変更ですが先述の問題は聴感上はだいぶ改善されました。後ほどシミュレーションで確かめると下げすぎたと思われる10kHz以上の帯域を最大で1dB程度上げるような変更になっていたようです。時間がなかったので再度の測定はまだ行えていませんが、測定結果はよりフラットに近づいているのではないかと思います。

音の感想としては、楽器の鳴らし分けができて表現力豊かなスピーカーと感じました。低域がやや強調されるため、一部の楽曲では低域がやや支配的でうるさく感じることがありますが、全体的に違和感のないモニタースピーカーのような音の仕上がりになっています。音色は落ち着いており重心が低くしっとりと聞かせ、明るさよりもおとなしい印象です。

おわりに

以前に告知しましたが、アニソンオーディオフェス2023に出展させていただく予定です。古い曲が多いですが試聴曲もようやく決めました。3年くらいの間隔で1曲ずつ選んだので、どれかは聴いたことがある感じの選曲にはなっているのではと思っています。

https://www.audifill.com/event/011_020/event_019_3time.html

このスピーカーの製作はいったんこれで完成となりますが、実際に会場で鳴らして気になる点があればもう少しチューニングを行うかもしれません。他の人の意見も聞きたいので、何か感想あれば教えてください。

製作時間がギリギリだったこともあり、自身もこのスピーカーの音をあまり聴けていない状態ですので、会場で音を聴けることを楽しみにしています。

最終的な仕様

  • エンクロージャー形式: バスレフ型
  • エンクロージャー容積: 6.2L
  • サイズ(幅 * 高さ * 奥行き) : 186mm * 298mm * 220mm (背面コネクタ等は含まず)
  • クロスオーバー周波数:1.9kHz (LR4)
  • ポートチューニング周波数 : 55Hz
  • 使用ユニット
    • ウーファー: Wavecor WF152BD05
    • ツィーター: SEAS 27TBCD/GB-DXT

クロスオーバーネットワークボードの製作 | Wavecor & SEASのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回の記事でクロスオーバーネットワークの回路と基板パターンの設計が終わりました。今回は届いた基板に部品を実装し、インピーダンス測定を行って正しく組み上がっているか検証します。

ネットワークボードの組み立て

今回も基板はPCBWayさんに発注しました。届いた基板が以下です。

届いたプリント基板

LPF側のボードはコイルが多く載ることから2.4mm厚で、HPF側は通常の1.6mm厚で発注しました。銅箔の厚みは両方とも2ozです。部品の色が映えるので、レジストの色は赤がしっくりきます。

製作は特に難しい部分はなく、回路図通りに部品をはんだ付けしていけば完成です。部品のフットプリントも正しくて特にミスはありませんでした。

部品を取り付け終えた基板

LPF側は大容量のコンデンサが必要な部分が多くて電解コンデンサをメインに使っています。縦型でフットプリントが小さくて済むことと容量誤差が小さいことからParc Audioの電解コンデンサを採用しています。

HPF側はすべてフィルムコンデンサを採用しており、特に大容量なものが必要なところについてはサイズが比較的小型なERSE社のPulse Xを使いました。コイルについては高い周波数でもインダクタンスの低下が小さい線径が細いものを意図して使っています。

ボードの設置スペースとの兼ね合いで大きい部品を使うのが難しいことと部品点数が多いためこのグレードの部品でも結構な金額になってしまうため、音質面まで考えた部品選択はできていないのが現状です。

ただ今回は昔買ったコイルや抵抗を流用できたりしたので、少し節約して組み上げることができました。

インピーダンス測定で検証

組み上がったボードを組み込んでインピーダンス測定を行い、結果がVituixCADのシミュレーションと一致するかを確認します。一致すれば想定通りの動作になっているということです。

HPF側はシミュレーションとほぼ一致していることがわかります。25kHzの山が1Ωくらい小さいですが、これは部品の誤差等もあるので仕方ないかなと思います。一方でLPF側は実測値の方が2kHz以降で低い結果となっています。

HPF, LPFのインピーダンス比較

この症状には覚えがありました。前作でもあった線径の太い空芯コイルを使うと線間容量が大きくなってインピーダンスが低下してしまう問題です。

LPFの1段目のコイルが14AWGの空芯コイルだったので、この部分が原因だろうと目星をつけて手持ちのコアコイルに変更しました。フェライトコアなので磁気飽和が少し心配ではあります。

LPFのコイルを交換

コイルを交換して再度インピーダンス測定を行ったところシミュレーションとほぼ一致しました。DCRも低くなることもメリットですし、やはりLPF側にはコアコイルを使う方が良さそうです。

修正後のLPF側のインピーダンス比較

完成

完成したネットワークボードが以下です。両方のボードを組み込んだトータルでのインピーダンスもシミュレーションとほぼ一致しています。

完成したネットワークボード

トータルでのインピーダンス比較

左右両チャンネル分を組み上げてエンクロージャー内部に組み込みました。

次回の記事

次回は最終的な特性を測定して調整し、聴感でのブラッシュアップを行います。

VituixCADでクロスオーバーネットワークを設計する | Wavecor & SEASのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回の記事でスピーカーユニット単体の測定データを得ることができました。今回の記事では、得られたNear FieldとFar Field測定のデータからVituixCADを使ってクロスオーバーネットワークを設計します。

Naer Field測定とFar Field測定のデータのマージ

ウーファー側のクロスオーバーネットワークを設計するためにはNaer Field測定とFar Field測定のデータのマージが必要です。Far Field測定での低域の測定限界以下の部分はNaer Field測定にディフラクションのシミュレーション結果を合成したものを切り貼りするようなイメージです。

以前はVituixCADのMergerをそのまま使っていたのですが、そのまま使うと軸外のディフラクションのシミュレーション結果の合成ができないため不正確であるという話を聞いてからは、Mergerで測定角度ごとの特性を1つ1つ合成していたりしました。ただこれだとすべての結果をマージするのに50ファイルくらいを操作しなければならないので大変です。

そこでVituixCADのCalculatorを使って同様の作業を行えるような手順を作ってみました。もしやり方として適切でない部分があれば教えてください。

  1. Mergerを使ってポートとウーファーのNear Field測定の結果に対してAreaまたはDiamを入力して、それぞれのScale dBをメモします。
    MergerでScale dBを取得
  2. Calculatorを起動しScale, Delay, Invert Aを選択し、ウーファーとポートのNear Field測定のそれぞれの測定ファイルに対して先ほどメモしたScale dBを適用します。
    CalculatorでScaleを適用
  3. Diffractionを起動しウーファーの軸上でのディフラクションをシミュレーションして軸外の特性も含めてファイルをエクスポートします。
    Diffractionでウーファーのディフラクションの特性を出力
  4. CalculatorのMultiplyを使ってウーファーのNear Field測定のファイルに上で作成したディフラクションのファイルを合成する。
    CalculatorのMultiplyでウーファーの測定ファイルにディフラクションの特性を合成
  5. CalcuratorのAddで2で作成したポート出力のScale後のファイルと上のディフラクションの特性をマージしたウーファーの特性を足し合わせます。
    CalcuratorのAddでポート出力とウーファー出力を合成
  6. Mergerで上で作成したファイルをLow Partに指定しFar Field Measurementsにチェックを入れてFar Field測定の結果とマージする。
    MergerでFar Field測定の結果とマージ

エンクロージャーに収めたスピーカーユニットのインピーダンス測定も行って、クロスオーバーネットワークの設計に必要なデータが揃いました。

クロスオーバーネットワークの設計

早速ですが完成したネットワーク回路が以下です。約1.9kHzでクロスさせており、スロープはLR4です。

HPFもLPFも基本的には2次のフィルタで減衰は十分なのですが、それだとクロスオーバー付近の位相がうまく合わなかったので両方とも3次のフィルタで構成しています。

完成したクロスオーバーネットワークの回路

周波数特性を整えるためにウーファー側には3つ(左から約8kHz, 約700Hz, 約1kHz)、ツィーター側には2つ(左から約7.8kHz, 約26kHz)のディッピングフィルタが入っています。さらにツィーターのfs付近の音圧を下げるために0.68uFのコンデンサをHPFにパラで入れています。

シミュレーション上の特性は以下のようになっています。推定Preference Ratingは(9)式で約6.2、定数を揃えたカスタム式で約6.5となりました。

シミュレーション上のクロスオーバーネットワーク込みの特性

ツィーターの26kHzのピークが大きくて1つのディッピングフィルターだけでは完全に取り除くことはできませんでした。おおむねきれいにまとまったかなと思いますが、3~4kHzあたりでDIが乱れてしまっているのは課題を感じます。

ネットワークボードの設計

前作と同じくKiCADを使ってネットワークボードのプリント基板を設計します。自分の配線スキルでは手配線できれいなボードを作るのは難しいのと、手配線は時間がかかるので、この製作方法を使うことが多くなってきています。

設計したネットワークボード

もう少しコンパクトにまとめたかったのですが、1つ1つの部品が大きいので2枚のボードに分けざるを得ませんでした。エンクロージャー底面にLPF基板、天面にHPF基板を設置することになると思います。

前作は基板がエンクロージャー底面の大きさと同じくらいで、スピーカーユニットを取り外さないとネットワークボードが取り出せないという状態でした。そのため細かいチューニングがしずらかったのです。

今回はその反省を生かしてスピーカーユニットに重なる部分が発生しないように設計しました。それもあって2枚に分けざるを得なかったというのもあります。

次回の記事

ネットワークボードとなる基板が届いたら早速製作に入ります。組み上がったらインピーダンス測定を行って、正しく組み上がっているか検証します。

告知

このWavecor & SEASのユニットを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーですが、アニソンオーディオフェス2023に出展させていただく予定です。

https://www.audifill.com/event/011_020/event_019_3time.html

当方が遠方のため現地には行けないとは思いますが、もし当日に試聴された方がいらっしゃいましたら感想を教えていただければ幸いです。残り時間は少ないですが、がんばって仕上げていきたいと思います。

測定データからポート長とクロスオーバー周波数の検討を行う | Wavecor & SEASのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回の記事ではツィーターの変更を行い、エンクロージャーの仕上げまで終わりました。今回はあらためてNear FieldとFar Field測定を行ってポート長とクロスオーバー周波数を検討していきます。

ポート長の再検討

ツィーターの変更は行ったもののウーファーやエンクロージャー容積の変更は行っていないため、必ずしもNear Field測定をやり直す必要はありません。ただ前回のNear Field測定の結果が気になっていたところがあり、100Hz以下が少しだら下がり気味の特性になっていることです。

これを改善するためにもう一度エンクロージャーのシミュレーションをし直したところ、ポート長を短くしてFbを上げたほうが好ましい特性になりそうということがわかりました。以下のグラフでピンクの鎖線が元の設計値でポートチューニング周波数を50Hzとした場合で、灰色の実線が55Hzとした場合になります。計算上のポート長は73mmとなりました。

ポートチューニング周波数の再検討

このポート長にするには以前に製作したポートのアダプタでは長すぎるため、新たにアダプタを製作しました。

製作した短いポートアダプタ

Near Field測定

この新しく製作したポートを使って再度Near Field測定を行い、ポート長を決めていきます。まずはもっとも短い状態の60mmで測定してみました。測定結果を見ると、低域が膨らんでしまっていてポート長が足りていなさそうです。また奥行き方向の定在波の影響でポート出力の800-900Hz付近に山ができてしまっています。

ポート長60mmでの測定結果

定在波の問題を解決するためにポートの奥、ツィーターの裏側あたりに薄い吸音材を1枚追加しました。

吸音材の追加前(左)と追加後(右)

この状態で再度Near Field測定を行いました。ポート長は65mmおよび70mmの両方で測定しています。結果を見ると70mmのほうがよりフラットに近い状態です。このあたりはクロスオーバーネットワークの特性によってもどちらがフラットになるかは変わってきそうなので、暫定的に70mmとしてネットワークの組み込み後に再度調整しましょう。

ポート長 測定結果
65mm
70mm

Far Field測定

ポート長が決まり、ポートの気柱共鳴などによる特性への影響も軽微だとわかったのでFar Field測定に移ります。

ウーファーの測定

まずはウーファーのWavecor WF152BD05の測定結果です。Far Field測定なので350Hz付近がネットワークの組み込み後の基準となるSPLになります。

500Hzからはバッフルステップによる音圧の上昇があり、5kHz以降はブレイクアップによる大きなピークがあります。このあたりをクロスオーバーネットワーク回路でうまく補正する必要がありそうです。

Wavecor WF152BD05の測定結果

ツィーターの測定

ツィーターのSEAS 27TBCD/GB-DXTの測定結果が以下です。20kHz以下についてはきれいな特性で軸外もあまり乱れがありません。一方で26kHz付近にある大きなピークが特徴的です。可聴域外のピークではありますが、ここまで大きいと気になる可能性もありますのでネットワークでピークをつぶしておくのが無難でしょう。

SEAS 27TBCD/GB-DXTの測定結果

クロスオーバー周波数の検討

ウーファーの測定結果を見るに軸上では3.5kHz付近にディップがあり、軸外の測定結果を見ても3kHz以降は音圧の低下が大きいため、クロスオーバー周波数は3kHz以下、できれば2.5kHz以下にする必要がありそうです。

ツィーターはデータシートを見ると推奨される使用帯域が2kHz以上となっているため、それくらいの周波数でクロスさせるのがよさそうです。

ツィーターとウーファーのDI(Directivity Index)をプロットしたグラフが以下です。これを見ても2kHz付近から乖離が始まっているので、やはり2kHz付近でクロスさせるのがよさそうです。

ツィーターとウーファーのDirectivity Index

次回の記事

今回の記事で測定が終わってクロスオーバー周波数も検討できましたので、次回はこのデータを使っていよいよクロスオーバーネットワークの設計に入ります。

ツィーター変更とエンクロージャーの改善・塗装の仕上げ | Wavecor & SEASのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回の記事でFar FieldおよびNear Field測定が終わりましたが、ツィーターのDIを見ると3〜4kHzの帯域に乱れがあるのが気になっていました。

今回はその点の改善を狙ってエンクロージャーに多少の修正を入れつつ、ツィーターを変更してみます。さらに塗装を仕上げます。

エンクロージャーの修正

シミュレーション結果を見るにディフラクションが指向性の乱れにつながっているという仮説があったため、エンクロージャーのエッジの面取りを2mmほど大きくしました。

さらにツィーター穴の部分に切り欠きを作り、深さも少し深く加工して他のツィーターも装着できるようにしました。

エンクロージャーの面取りとツィーター穴の追加工

エンクロージャーの追加補強

エンクロージャーの追加の補強として、金属板の接着されている部分に対して寸切りボルトを使って左右の側板にテンションをかける方法を採用してみました。これは以下のサイトで行われていた方法です。

heissmann-acoustics.de

エンクロージャーの補強用の寸切りボルト

エンクロージャーの塗装

エンクロージャーの仕上げに入ります。塗装は、突板を貼り付けてからポアステイン塗布を3回、シーラー塗布を4回、ウレタンニス塗布を2回行いました。この仕上げ方は前作とほぼ同じです。慣れてきたおかげか、前作よりもムラが無くきれいに仕上がったと思います。

塗装が完了した姿

見た目も前作と似ていることから、今回のプロジェクト名はSummer Tanager(ナツフウキンチョウ)としました。前作はScarlet Tanager(アカフウキンチョウ)でしたので、フウキンチョウつながりです。両方とも赤がきれいな鳥で見た目の印象があっているかなと思います。

背板も塗装して部品を取り付けました。背板に使った突板は他で使ったものとは買った時期が異なるのですが、少し濃いめの色となっていて味のある良い色になりました。

部品を取り付けた背板

ツィーターの変更

前回の測定で装着したツィーターはWavecor TW030WA09でしたが、もう少し指向性の狭いツィーターを使うとディフラクションの影響を抑えられるのではないかと思い、候補としてSEAS 27TBCD/GB-DXTをあげていました。

両方のツィーターの測定結果が以下のサイトに掲載されています。比べてみると27TBCD/GB-DXTの方が軸外の減衰量が大きいようです。

heissmann-acoustics.de

27TBCD/GB-DXTはデータシートを見ると25kHz付近にかなり大きなピークが存在しており、これが音色に影響を与えそうではあります。

ただ実際の音を聴いたことはなくて興味はあるので、今回はこのツィーターに変更してみようと思います。

構成としては以下のサイトと同じようなものになりそうです。ウーファーユニットのインピーダンスは違うものにはなります。

heissmann-acoustics.de

スピーカーユニットの取り付け

ウーファーのWavecor WF152BD05とツィーターのSEAS 27TBCD/GB-DXTを取り付けて完成です。スピーカーユニットの黒が映える赤いエンクロージャーになりました。

スピーカーユニットを取り付けた姿

次回の記事

次回は再度Far FieldおよびNear Field測定を行います。

クロスオーバーネットワークの改良 | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

前回の記事では、完成当初から気になっていたエンクロージャーの箱鳴りの対策を行いました。今回はクロスオーバーネットワークの改良を行い、実測値とのズレの修正やウーファーとツィーターの位相でズレがあった部分を合わせます。

スピーカーユニットのインピーダンスを測定し直し

この作品を製作した当時はインピーダンス測定にパワーアンプを経由した方法で行っていました。ただこのやり方では自作のパワーアンプの出力抵抗のせいか0.数Ω程度の誤差が出てしまうようです。

そのため最近はオーディオインターフェースのヘッドホン出力を利用した方法に変更して行っています。

クロスオーバーネットワークの正確なシミュレーションには正確な測定結果が必要ですので、エンクロージャーに収めたユニットのインピーダンスは測り直しました。

クロスオーバーネットワーク回路を設計し直し

もともと用いていたユニットのインピーダンスは誤差が入っており、上記の測定の結果とは最適なネットワークが変わってくるので定数を中心に回路を修正しました。

設計し直したクロスオーバーネットワーク

変更内容を説明します。

ハイパスフィルター(HPF)側の変更

ツィーターであるDayton Audio ND25FW-4と接続しているHPFのネットワークでは、以前の記事で述べたように高域のインピーダンスがシミュレーションと実測値で乖離する問題がありました。

この原因は基板パターンの引き回しの問題ではないかという仮説があります。そこでループとなるような引き回しをできる限り最小化した基板パターンを引き直してみました。できあがった基板が以下です。

パターンを改良したHPF基板


今回の基板製作はPCBWayさんにスポンサーしていただきました。ありがとうございます。

PCBWayさんのPCB製造サービスは板厚が3.2mmまで対応しており、重厚なネットワークボードを作る際にも頑丈な基板を製作できるのが良いところです。他のPCB製造サービスではそこまでの厚みの基板を製造してくれるサービスはなかなかありません。

今回は重量のある大きなコイルを載せるような基板ではないため以前と同じ2.4mm厚にしましたが、ウーファーのネットワークボードを製作するなら3.2mm厚も検討します。

また銅箔厚さも1oz〜13ozの間で見積もり可能でウーファー側のネットワークのようなパターン抵抗を気にするようなところでも使いやすいのも良い点です。今回はツィーター側のボードなので以前と同じ2ozで製造していただきました。


部品を装着して組み上げたのが以下の基板です。

HPF側クロスオーバーネットワークボード

今回はコンデンサにJantzen AudioのStandard Z-Capを使用しました。HPF部分なので無誘導巻きのフィルムコンデンサの方が良いだろうということで採用です。その在庫があるもので組んだのでHPFの2段目のコンデンサが6.8uFから6.9uF(3.3uF + 3.6uF)へ変更となりました。

実際のところ、基板のパターンを引き直しただけでは実測値とシミュレーションの乖離は少し近づいた程度で大きな差は埋まりませんでした。そのため測定と部品の定数変更でシミュレーションに合わせていきました。

まずはコイルと直列に入っている抵抗の調整です。パターン抵抗のためかシミュレーションと比べて少し抵抗値が高くなっているようだったので、0.2Ω程度低いものに交換しました。

そして実測値とのズレの解消に一番効果があったのが、コイルの線径を細くしたことです。

もともとはパーツを流用して手持ちの17AWGのものを使用していましたが、LCRメータで測定すると測定周波数が高くなるにつれインダクタンスがあきらかに減少することがわかりました。そのため線径が細い20AWGのものに交換しました。

この部分は以下の記事を読んで気づいたところです。とても助かりました。

a116-113.hatenablog.com

これで以前からの気掛かりであったHPF側のインピーダンスのズレは解消しました。

ローパスフィルター(LPF)側の変更

ウーファーWavecor WF120BD03と接続するLPFのネットワークには、素子の追加と定数を変更しました。

以前の回路では3kHz以降にツィーター側との位相のズレがありました。3kHzはちょうどクロスオーバー周波数ですので、そこからの位相がズレているのは気になるところです。

LPF1段目の抵抗と直列になっているコンデンサに並列となるコンデンサを追加したところ、位相のズレはほぼなくなりました。MJ誌の連載を読み直していたときに知った方法で、試しに採用してみたのが功を奏しました。

変更後のツィーターとウーファーの位相

他の変更点はインピーダンスの再測定やコンデンサ追加による特性の変化に合わせた定数変更が主なところです。組み上げた基板の写真が以下です。

LPF側クロスオーバーネットワークボード

コイルについては以前の記事で述べたようにコアコイルを試してみました。1段目のコイルをJantzen AudioのP-Coreコイルに変更して試聴してみたのですが、少しピアノの音の解像度が下がったように感じました。以下の記事で書かれている中域の歪みのせいかもしれません。

a116-113.hatenablog.com

そのため本作は空芯コイルのままで進めることにしました。どちらのコイルも15AWG, 14AWGと比較的太めの線材のものを使っています。

シミュレーション上の特性

最後に、改良後のクロスオーバーネットワークで得られるであろう特性のシミュレーション結果が以下です。軸上は15kHz付近のピークを除くとほぼフラットになっており、PIRも直線的に減衰しています。

改良後のクロスオーバーネットワークで得られる特性

群遅延がかなり高くなってしまっているのは気になるところで、パッシブラジエーターの重りの調整が必要かもしれません。最低インピーダンスが2.8Ω程度と低く、少しアンプには負荷がかかるかもです。

次回の記事

次はNear FieldとFar Field測定を行って測定結果を見ながら、パッシブラジエーターやネットワークの定数を少し調整していく予定です。

エンクロージャーの補強 | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

試聴の感想でも記載した通り完成したスピーカーの奏でる音には満足したのですが、音量を上げると板厚15mmのエンクロージャーではやはり箱鳴りが気になります。そこで今回は金属板で補強を行い、またウェーブガイド部分にパテを盛ることで対策します。

部品の制振

まずはパッシブラジエータやターミナルカップにオトナシートを貼って少し制振を行います。両方とも薄板の部分が多いため多少なりとも改善されれば良いのですが。

オトナシートを貼って制振

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エンクロージャーの補強

続いてエンクロージャー本体の補強を行うため、アルミ板(t=3)を貼り付けます。現在製作中のスピーカーと同様にアルミ板にはオトナシートを貼って接着しました。

あて木をしながらクランプを使ってアルミ板を接着

新作のエンクロージャーとは違い、エンクロージャーが小さくてネットワークボードを入れるスペースがタイトです。そのためネットワークボードを入れるマージンを残しての貼り付けとなり、エンクロージャーの側面は小さな補強板の追加にとどまっています。

接着には3M Scotchの接着剤を使いました。臭いがあまりないので室内でも作業しやすかったです。少し粘性があるのでヘラで薄く伸ばす必要があります。

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念のため定在波に影響でないかはシミュレーションで確認しましたが、内寸が5mmほど小さくなるくらいではほぼ影響はありませんでした。

ツィーターのウェーブガイド部分を補強

Dayton Audio ND25FW-4のウェーブガイド部分はプラスチックで薄いため、遮音性に少し不安があります。そこでパテを盛ることにしました。

ウェーブガイドの裏に単にパテを盛るとエンクロージャー内部が汚れたり、ツィーター自体が取り外しにくくなったりすると思ったので、アクリルパイプと円板を使ってパテを充填するケースをつけることにしました。

アクリルパイプと丸板を組み合わせてパテを盛る

外径74mmのアクリルパイプをウェーブガイドの裏にエポキシ接着剤で貼り付けて、そこにパテを充填します。最後に円板を押し付ければパテの粘着力で固定されます。

パテはX(旧Twitter)でおすすめしていただいた未来工業 高比重パテを使いました。大きさのわりにずっしりしていて制振効果が高そうです。パテは1個で2台分をまかなうことができました。

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次回の記事

エンクロージャーで気になっていた部分の補強は終わったので、次回はクロスオーバーネットワークを改修したいと思っています。

Near Field測定とFar Field測定 | Wavecorのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回の記事でエンクロージャーの組み立てが終わりました。

今回はNear Field測定とFar Field測定を行い、改善案やクロスオーバー周波数を検討します。

Near Field測定

最初にNear Field測定を行い、低域の状態を確認します。ポートの気柱共鳴でディップが大きく出ることを以前経験しており、Near Field測定を先に行なってポートや吸音材の調整をある程度済ませておきたいからです。

Near Field測定の様子

ポート長を90mmとし吸音材は補強板の下あたりにふわっと入れた状態で測定しました。ポートレスポンスには気柱共鳴の影響で1.7kHz付近に大きめのピークが出ています。それ以外にも定在波の影響でいくつかピークが見受けられます。

ポート長90mm + 吸音材少なめのNear Field測定結果

低域の伸びはほぼ設計通りなので、ポート長は90mmで問題なさそうです。

900Hz付近の定在波は奥行き方向のものです。そこでポートの奥、つまりツィーターの裏側あたりに薄い吸音材を追加して再度測定してみました。狙い通り900Hz付近のピークは小さくなり、また吸音材の量が増えたおかげか高さ方向の定在波のピークも少し軽減されたようです。

ポート長90mm + 吸音材を追加した場合のNear Field測定結果

ポートの気柱共鳴の影響はまだ残ってしまっていますが、ポート長を変更してもあまり大きな変化はなかったため、いったんこの状態で進めることにしました。ネットワーク組み込み後に改めてポート長や吸音材の量の調整は必要でしょう。

Far Field測定

次にFar Field測定を行います。今回は少し時間がとれなかったので0〜90°までは10°単位、90°から180°までは20°単位で測定を行いました。

ウーファーの測定結果

まずはウーファーであるWavecor WF152BD05の測定結果からです。ポートの気柱共鳴によるディップはほぼなくて綺麗な特性です。90°を超えるとさすがに特性は乱れてきますが、指向性もきれいでネットワークは組みやすそうです。

ウーファーのFar Field測定の結果

ツィーターの測定結果

次にツィーターのWavecor TW030WA09の測定結果です。指向性はだいたいきれいなのですが3〜4kHzに乱れがあります。これはおそらくエッジディフラクションの影響です。

ツィーターのFar Field測定の結果

ツィーターのディフクラクションのシミュレーション結果

3〜4kHzに乱れがなければネットワークは組みやすそうなのですが...

ドライバーのデータシートを見るとその帯域は少し指向性に乱れがあります。ただそこまで大きくはないので、エッジディフラクションの影響も被ってしまって、より強く現れたのかもしれません。

エンクロージャーの面取りを10mmしかとっていないのも多少特性に影響していそうではあります。もう少しツィーターの周辺だけでも大きく面取りをして、エッジディフクラクションの影響を減らすべきだったかもですね。

クロスオーバー周波数の検討

次に各ドライバーのDIを見てクロスオーバー周波数を検討します。DIが一致するのは2kHzまでで、それ以降は乖離していきます。そのためクロスオーバー周波数は2kHz付近が良さそうです。

各ドライバーのDI(赤実線:ウーファー, 銅色鎖線:ツィーター)

特性の改善案を検討

ツィーターのDIを見ると先ほど述べた3〜4kHzの帯域に乱れがあるのが気になってしまいます。

しかしエンクロージャーの面取りを大きくしようにも、四隅にマグネットホルダーが埋め込まれているので今からの加工は難しいかなとは感じています。

もう少し指向性の強いツィーターに換装することを考えてみるのはどうでしょうか。今回採用したTW030WA09は浅めのなだらかなホーン形状のフェイスプレートです。もう少し深めのものを検討してみましょう。

同じWavecorであればTW030WA11はそのような条件を満たしますが、外径が大きいので装着できません。

Seas 27TBCD/GB-DXTは穴径とネジ穴位置が一致するので候補になります。また前作で使用したDayton Audio ND25FW-4も穴径とネジ穴位置が同じです。

こうしたツィーターに換装もありかもしれないですが、やはり根本的な解決にはなってないのは気になるところです。

次回の記事

次回は特性の改善のために改修を行うか、このままネットワークの設計を進めるか、のどちらかになると思います。

実測値とのズレの原因を調査 | ウェーブガイドを使ったデスクトップ小型2wayスピーカーの製作

Wavecor WF120BD03とDayton Audio ND25FW-4を使ったデスクトップ小型2wayスピーカーは以下の記事で完成しました。

しかし、上記の記事や以下の記事で述べたように最終的な特性は少しシミュレーションと差があるようです。

今回の記事ではその原因について探って特性の改善につなげたいと思います。

ツィーター側のインピーダンスの差の調査

先ほどの記事でも述べたように7kHz以降でインピーダンスの実測値がシミュレーションと比較すると最大0.5Ωくらい低いようです。

実測とシミュレーションでのインピーダンスの比較

組み上げた当初は基板のパターン抵抗によるものだと思っていたのですが、銅箔厚を2ozにしておりパターン幅も1cm程度あることから抵抗値だけでこの特性になったとは考えにくいのです。シミュレーションでこの特性になるように抵抗値を上げていくと非現実的な値になります。

基板パターンを見直していたところ下図のようにループになっている部分があることに気づき、これがインダクターのように作用しているのではと思いました。

HPFの基板パターンのループ

小さなインダクター(5.6uH)をシミュレーション回路のL-Padの抵抗の直後に入れたところ、インピーダンスの実測値(オレンジ破線)がほぼ一致することがわかりました。

実測値を反映した回路とインピーダンスのシミュレーション結果

これについては基板パターンの問題であることがわかったためパターンを引きなおして基板の作り直しかなと思っています。

ウーファー側の軸上SPLの差

最終特性の測定の時にウーファーの軸上SPLを測定したところ1kHz付近のピークがシミュレーションより大きく出ているのが気になっていました。

ウーファーの軸上SPLをシミュレーションと実測値で比較

このあたりはちょうどディッピングフィルターで補正している部分なので、その部分を中心に定数を少し変更して実測値に近づくか確認していきます。5.6Ωとなっている抵抗を6.8Ωまで変化させると実測値に近づくようです。

コイルのDCRの誤差やパターン抵抗が考えられますが、少し大きい差には感じられます。ただ抵抗値で変化させることができる部分ではあるので、ここは試行錯誤するしかなさそうです。

低域のSPLの差

シミュレーションと実測値の差の最後が300Hz以下のSPLの差です。下図からシミュレーションと比べて1dB近く落ちてしまっている部分があることがわかります。

Near Field測定の結果をマージした実測値とシミュレーションの差

これについてはLPFを構成するコイル2つのDCRの誤差とパターン抵抗、その他ケーブルや端子の抵抗によるものではないかと推測しています。シミュレーションではデータシートの値0.17ΩをコイルのDCRとして設定していましたが、0.3Ωまで増やすとこれくらいの差が出るとわかりました。

これの対策としては抵抗を減らすことくらいしかなく、例えばコイルを空芯コイルからコアコイルに変えるといったことが考えられます。

次回の記事

シミュレーションとのズレの原因の見当がついたので、対策をネットワークボードへ反映していこうと思っています。他のスピーカーの製作も進めているので時間はかかるかもしれません。

エンクロージャーの組み立て | Wavecorのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回の記事でエンクロージャーの設計が終わりました。発注した木材も届きましたので、組み立てていきます。

届いた木材

今回も今までと同じくストーリオさんに発注してエンクロージャーの木材を加工していただきました。

板取り図を作る必要がないのが嬉しくて3D CADで図面さえ描けばすぐに発注できます。また板ごとに厚みを変えることができるので設計に柔軟性が出るのも良いところです。

数週間後に届いた木材を仮組みして設計に間違いがないか確認します。少し加工誤差が積み上がってズレが発生しそうだったのでサンダーで削って調整しました。

届いた木材を仮組みして確認

エンクロージャーの組み立て

コーナークランプとクイックバークランプを使いボンドで接着していきます。

クランプを使って接着

補強板を側板に取り付け終わりました。今回はカットの費用を抑えるために補強板は左右に割った形にしました。ズレが発生しやすい形になってしまったので、次回からは普通にコの字型にするか、木材ではなく金属板などをねじ止めする形を検討しても良いかもしれません。

補強板の取り付けまで終わったところ

側板は下側が少しスペースがあったので、補強のためアルミ板(t=3)を貼り付けました。Twitterでアドバイスをいただいたので制振のためのオトナシートも貼りました。

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真ん中部分が開いているのはここに寸切りボルトを入れて側板にテンションをかけたい狙いがあるからです。

今作は前作の反省から箱鳴りを抑える方向で進めています。

側板に金属板を貼り付け

クランプを使って側板を接着していきます。この部分の接着は多くのクランプが必要になります。

側板を接着

ねじ止め用の穴にはビットインサートや鬼目ナットを打ち込みます。スペースに余裕がある部分には鬼目ナットを使い、クリアランスが取れない部分にはツバの小さいビットインサートを使っています。

また防湿性を高めるためにエンクロージャー内部にはシーラーを塗布しました。

ビットインサートの打ち込みとシーラー塗布

前作と同様に将来的にグリルをつけたくなった時のためのマグネットホルダーとなる金具を埋め込みます。上から1mm厚のMDFでふたをして、ヤスリやパテで整えれば平らになります。

マグネットホルダーの埋め込み

全体のズレを研磨して修正してからバッフル板を取り付けます。

バッフル板の取り付け

スピーカーユニットの取り付けに問題がないかを確認します。今回使用するウーファーのWavecor WF152BD05は座ぐり穴径は小さくて通常の低頭ビスが入りません。そのため少し値段が高いのですが、小頭の低頭ビスを使いました。

item.rakuten.co.jp

ツィーターのTW030WA09については通常の低頭ビスで問題ありません。

ユニットの仮取付け

仕上げとしてエンクロージャーに突き板を貼り付けていきます。前作で余ったウォールナットの突き板があったので、そちらを使っています。色も揃えれば兄弟機のようになりそうです。

突き板の貼り付け

完成

ここまでの作業でエンクロージャーが完成です。塗装はまだ終わっていませんが、測定できる状態になりました。

エンクロージャー完成

次回の記事

次はNear Field測定を行ってポートや吸音材の調整を行い、その後にFar Field測定を行います。

ウェーブガイドWG148RとツィーターSB29RDNC-C000-4の組み合わせを検証

前回の記事ではVisaton WG148R & Monacor WG-300とPeerless XT25TG30-04の組み合わせを検討してみました。

他のツィーターと組み合わせての特性を確認してみたいと感じたので、今回は以下の2つのツィーターを試してみます。

手持ちのツィーターからデータシート上での特性が素直そうなものを選びました。

前回の記事ではMonacor WG-300との組み合わせも検討しましたが、ウェーブガイド自体がかなり大きくてエンクロージャーが大型になりそうだったので、今回はVisaton WG148Rに絞ります。

アダプタの製作

SB29RDNC-C000-4はエッジを含めた振動板がWG148Rのスロート径より大きいです。そのためツィーターにリング状の延長アダプタをつけて、ウェーブガイドを少し振動板から離して取り付けました。スロート部分でいったん絞るような形になります。

SB29RDNC-C000-4にWG148Rを取り付け

以前使った Dayton Audio ND25FW-4 もエッジ部分がスロートより少しはみ出るような形でしたので、似たような形にはなっています。


RST28A-4の方も見てみましょう。フェイスプレートを取り外すことはできるのですが、振動板を覆っているネットを取り外すことはできないようです。そのためネットの上からウェーブガイドをかぶせるような形になってしまいました。

RST28A-4にWG148Rを取り付け


今回の部品製作はPCBWayさんにスポンサーしていただきました。ありがとうございます。

PCBWayの3Dプリントサービスに発注して製作していただいたアダプタが以下です。寸法精度や平滑の度合いも問題なく、満足な仕上がりです。

PCBWay 3Dプリントで製作したアダプタ

スピーカー1セット分になるので両方とも2個ずつ注文して合計$26くらいの価格でした。片方は厚みも5mmくらいあり直径も115mmと大きいこともあり、価格面が心配でしたがこれくらいの価格で製作できて安心しました。

自分で製作するとヤスリがけしたりといろいろ手間がかかるので、やっぱり発注した方が楽で良いですね。

測定結果

アダプタを使ってウェーブガイドに取り付けたツィーターを測定します。測定条件は前回と同じです。比較用に前回のXT25TG30-04の結果も合わせて示します(前回は40dBレンジで載せていたことを失念していて、これだけズレてしまっています)。

SB29RDNC-C000-4 RST28A-4 XT25TG30-04
SPL測定結果
軸上で正規化した結果

RST28A-4の測定結果のピークとディップの激しさが目につきます。正規化しても11KHz付近に乱れがあるようで、少し扱いづらさを感じました。

SB29RDNC-C000-4の結果を見ると10KHzのディップとそれ以降の大きなピークが気になるものの、正規化された値を見ると軸外に向けてきれいに減衰していっているので、軸上を整えることができれば綺麗な特性を得られそうです。

これら2つと比べるとXT25TG30-04はピーク、ディップが少なく扱いやすそうな特性であるとわかりました。

まとめ

今回はウェーブガイドのスロート径より大きな振動板(とエッジ)を持つツィーターを使えないかどうか確認してみるのが一つの目的でした。

試した2つのツィーターはどちらもXT25TG30-04より扱いやすい結果になったとは言いづらいです。

他に候補があれば試すかもしれませんが、これらの候補からスピーカーを製作するならVisaton WG148RとPeerless XT25TG30-04の組み合わせが良いかなと思います。次点でSB29RDNC-C000-4でしょうか。

バスレフ型エンクロージャーの設計 | Wavecorのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回の記事でスピーカーユニットの選定が終わりました。

今回はウーファーのWavecor WF152BD05のT/Sパラメータからバスレフ型エンクロージャーを設計します。

T/Sパラメータの測定

LIMPを使ってWavecor WF152BD05のインピーダンスを測定し、デルタコンプライアンス法でT/Sパラメータを算出します。

LIMPを使ってのインピーダンス測定(緑:フリーエアー, 黄:密閉箱)

計算されたT/Sパラメータを以下に示します。表を見る限りではデータシートの値に近いものの、どちらかといえばブレークイン前のものに近い値になりました。

パラメータ ユニットA ユニットB データシート(ブレークイン前) データシート(ブレークイン後)
Fs (Hz) 50.2 48.4 50 44.5
Re (ohm) 3.3 3.26 3.2 3.2
Qts 0.35 0.33 0.33 0.29
Qes 0.37 0.34 0.34 0.30
Qms 10.57 10.34 10.3 8.2
Mms (g) 12.82 13.00 13.5 13.5
Rms (kg/s) 0.39 0.38 0.41 0.46
Cms (mm/N) 0.79 0.83 0.75 0.94
Vas (liters) 9.54 10.18 9.2 11.5
Bl (Tm) 6.03 6.12 6.35 6.35

ブレークインが足りていないのかと思い、24時間→48時間→電圧を8Vに上げて3時間と段階的に測定してみましたが、特に大きくは値に変化はありません。

少しAとBで特性に差があるためどの値を使うべきか悩みますが、以降はデータシートの値に近いBの方の値を用いています。

エンクロージャーのシミュレーション

バスレフ型のシミュレーション

求めたT/Sパラメータから前回の記事の通り6L程度のエンクロージャーを設計します。

もともとはデータシートのブレークイン後の値で0.6Ω程度のネットワーク抵抗があればフラットになる特性でシミュレーションしていたのですが、ブレークイン前の値に近い結果となったため少し変更する必要がありました。

結果としてネットワーク抵抗は0.4~0.5Ωへ、ポートのチューニング周波数も53Hzから50Hzへと変更です。ポート長が少し長くなるため、気柱共鳴の周波数の変化を考慮してポート直径を28mmに絞りました。

定在波などの検討結果からエンクロージャー容積を少し増やして6.2Lにしています。

エンクロージャーの低域特性のシミュレーション

f3: 60.8 Hz
f6: 49.7 Hz
f10: 41.2 Hz
GDmax: 9.7 ms  @ 34.6 Hz
XmaxC: 5.4 mm  @ 5 Hz
VmaxR: 14.1 m/s @ 37.8 Hz

1作目と比較してもf6や群遅延が小さくできており、期待が膨らみます。一方で、クロスオーバーネットワークを設計する際にはコイルのDCRに注意を払う必要がありそうです。

ディフラクションのシミュレーション

エンクロージャー容積が決まったため、次にバッフル板のサイズやスピーカーユニットの取り付け位置を確定するためにディフラクションのシミュレーションを行います。

ディップが1dB程度におさまるように、ツィーターの位置をずらしながら検討した結果、幅186mm 高さ298mmのバッフル板としました。角は10mm丸める設定でシミュレーションしています。

ツィーターのディフラクションのシミュレーション

ウーファーについても同様の検討を行います。ウーファーが下部中央付近に位置するため3KHz付近の乱れが生じています。少し気になりますがクロスオーバー周波数を低くすれば大丈夫かな、とは思っています。

ウーファーのディフラクションのシミュレーション

定在波のシミュレーション

容積とバッフルサイズはこれで決まったので、残るは定在波のシミュレーションです。3方向の定在波のピークがずれるように3辺の長さを調整します。

前回の記事でも述べたようにポートの気柱共鳴についても定在波のピークがない部分に位置するようにします。多少のポート長の調整があるかもしれないので、その周辺は余裕をもって避けておきます。

高さ方向の2次の定在波が少し近いですが、これはポート位置を高さ方向の1/4の位置に設定することで軽減できるのではないかと思っています。

定在波のシミュレーション

エンクロージャーの設計

前作では板厚15mmとしたところ、大きめの音量では触ると板が震えているのがわかるレベルでした。これでは箱鳴りが気になりそうなので、今作では板厚18mmとして、さらに上板にも補強を追加する形にしてみました。

バッフル板のエッジについては、幅や高さの制限で大きなフィレットを入れることができなかったので、面取りを試します。

背板は取り外せる構造としており、ネットワークボードやバスレフポートのメンテナンスがしやすくなっています。

エンクロージャーの3Dモデル(右側板を外した状態)

バスレフポートの設計

前述した通りポート径を28mmと振動板面積に対して小さめの値にしているので、ポート内の空気の流速が速くなります。流速が大きくなると乱流が発生しノイズが発生するようで、その対策としてポート形状をフレア状にすることが効果的と知られています。

ただ自分が読んだ本にはこのフレアの大きさについて具体的に語られているものがなく、ポートを自作する際に少し困りました。そこでいくつか論文を読みながら検討しました。

まずフレアの大きさについては「Maximizing Performance from Loudspeaker Ports」 Salvatti, Alex; Devantier, Allan; Button, Douglas J. (2002)を読むとポート長と同じ半径を持つ円状にフレアを広げるのが最もバランスが良いと書かれています。またフリンジを内側にもつけることでポートの対称性が確保されて高調波歪みの改善につながるようです。

これらを採用することにしましたが、この形の問題はポート長の調整が難しいことです。ポート長を調整するにはその長さのポートをいくつも製作しなければなりません。Precision Portのように真ん中のパイプ部分だけ交換できれば良いのですが、パイプ部分が長くなるとフレア部分が短くなり特性に影響が出るかもしれません。

その疑問点について実験してくれていたのが「Maximizing Bass Reflex System Performance Through Optimization of Port GeometryOptimization of Port Geometry」 Bryce Doll (2020)です。

この論文ではポート中央のストレート部分の長さが特性に与える影響を調査しており、ストレート部分が短ければ特性への影響は小さいが、長くなるとフレアの効果がやはり小さくなることを示しています。

上記2つの論文からストレート部分を最小限にしつつ、長さは多少調整できるフレア付きポートを製作したのが以下です。接続部に内径が同じパイプを入れることで長さの調整が可能となっています。

製作したフレア付きポート

次回の記事

エンクロージャーの木材が届くまでもう少しかかりそうですが、次回は組み立ての記事になる予定です。

設計方針とユニットの選択 | Wavecorのユニットで作るバスレフ型2wayスピーカー

前回の汎用ウェーブガイドの話はもう少し試行錯誤したいので、別の工作を進めようと思います。

VituixCADを初めて使って設計・製作したのがScan-Speak Discoveryシリーズを使ったバスレフ型2wayスピーカーでした。

少し前に製作したスピーカーセレクターを使って交互に切り替えながら聴き比べてみると、ピアノや弦楽器の音のリアルさではデスクトップ2wayスピーカーに負けるものの、やはり口径の大きさからくる最低域の量感や低域のこもりがあまりないといった良さもあるとわかりました。

ただデスクトップ2wayスピーカーと比べると測定上の特性のフラットさには欠けてしまっています。そこで15cmウーファーを使ったバスレフ型2wayスピーカーに再挑戦して、1作目を超える仕上がりを目指すことにしました。

改良すべき点と対策

まずは1作目のスピーカーで改善したい部分を洗い出します。

ツィーターの軸外特性

1作目では、最初のユニット選定の時点で軸外特性を正しく検討できておらず、結果としてPIRを整えると軸上が乱れるといった状態になってしまいました。

ポートの気柱共鳴

以下の記事で測定した結果からもわかる通りポートの気柱共鳴によるディップがくっきり出てしまっています。

ポート径を小さくして長さを短くすることで気柱共鳴の周波数をずらしてみましたが、完全には解決できませんでした。

これについては以下の対策を考えています

1. ポート位置をリアに移動

リアにポートをつけることで直接音としては耳に届きにくくなるので多少軽減されるでしょう。抜本的な対策ではないですが。

2. ポートの気柱共鳴と定在波の周波数をずらす

以下の記事で定在波の検討はしていましたが、全体的に各方向の定在波のピークが近くポートの気柱共鳴の周波数付近に余裕がありませんでした。

定在波のピークとポートの気柱共鳴の周波数が被ると強く出ることがあるようなので、なるべくピークを離せるような設計になると良さそうです。

3. ツィーターとのクロスを下げる

ポートの気柱共鳴の周波数でウーファーの音圧の減衰をとれれば多少低減されるかもしれません。

口径の大きなツィーターを使うことでクロスオーバー周波数を下げることが可能とは思います。2kHzでのクロスであれば1.5kHzあたりでも数dBくらいの減衰はあるのかなと。

ただこれは測定してネットワーク設計してみないと実現できるかはわからないです。

群遅延

低域を伸ばそうとした結果、容量の大きなエンクロージャーとなってしまっており、群遅延が大きくなっていました。

どこまで群遅延を許容するかは判断が難しい部分ではありますが、初期に検討した閾値からすると許容範囲内ではあったようです。この値は上回らないように設計を進めましょう。

エンクロージャーの物理的な大きさ

前述した群遅延の大きさもありますが、エンクロージャーが単純に大きくて置き場所を考えるのが難しいという物理的な問題がありました。

もう少し小さく作って取り回しを良くしたいという気持ちがあります。

ユニットの選択

前述した改良点を実現できるようにスピーカーユニットを選びましょう。

ウーファー

1作目は低域で-6dBとなる周波数を52Hzにするという目標で約9Lのサイズのエンクロージャーを製作しました。今作ではもっとコンパクトなエンクロージャーを実現したいため、6L程度にしたいと思っています。

一方で低域の伸びがなくなってしまうと前作を超えたとは言い難い面もあるので、同じくf6が52Hzとなることを目標とします。

価格や入手性、データシートのT/Sパラメータの信頼性の観点からウーファーユニットをリストアップして、エンクロージャー容量を6L、ネットワーク抵抗を0.6Ωとしてバスレフ型のシミュレーションを行いました。なお低域がフラットにならなかったものは値を記載していません。

各ユニットでバスレフ型のシミュレーション結果

こうして表にしてみると、この容積ではWavecorのユニットが優秀であることがわかります。Wavecorのユニットは前作で満足いく音質であったことから、今作もWavecorを採用しましょう。

候補となるWF152BD05とWF152BD09/10を比べてみると、データシート上ではWF152BD05の方がピークやディップが小さくて扱いやすそうです。

WF152BD05_06_07_08

WF152BD09/10/11/12 6 inch die cast, Kevlar/Carbon fibre cone mid/woofers

ケブラー・カーボンコーンのユニットも聴いてみたい気持ちはありましたが、ペーパー・グラスファイバーコーンのWF152BD05を採用することにしました。

Wavecor WF152BD05

ツィーター

ウーファーがWavecorのものに決まったので、音色の統一感を重視して同じくWavecorから選んでいきたいと思います。前作はDayton Audioのツィーターでしたので、Wavecorのツィーターは初めて使います。

Wavecorのツィーターは口径が30mmと大きいラインアップがあり、全体的に指向性を整えたモデルが多いようです。その中から選んだのはTW030WA09です。

TW030WA09_10

Wavecor TW030WA09

これは「自作スピーカー デザインレシピ集 マスターブック」の4章でも使われているツィーターで浅めのウェーブガイドのようなフェイスプレートが特徴です。

このフェイスプレートの効果かデータシートや海外の測定結果から軸外特性が整っているのがわかります。

heissmann-acoustics.de

マスターブックの4章の作例ではクロスオーバー周波数を2kHz以下に設定できており、今作でもツィーターとのクロスを下げられるかもしれません。

なおこのユニットはドームの素材の更新で廃番になって代替となる新規機種が出るようで、使うのは今回が最後になりそうです。

次回の記事

これでVituixCADを使って設計するスピーカーは3作目になりますが、マスターブックと同じユニットを毎回どこかで使っています。そのユニットが選ばれるには理由があるんだとは感じられるようになりました。

スピーカーユニットの選定までできたので、次回は残りの改善ポイントを対策しながらバスレフ型のエンクロージャーを設計していきます。

汎用ウェーブガイドとリングラジエーター型ツィーターXT25TG30-04の組み合わせを検証

前作の製作が終わった頃にTwitterで次回作のアンケートをとっていました。結果を見ると汎用ウェーブガイドを使った2wayを希望する方が多かったようです。

汎用ウェーブガイドを使ったスピーカーは組んだことがないので、簡易的な測定を行って事前に効果を確認しようと思います。

市販されているウェーブガイドだとVisaton WG148RMonacor WG-300が候補です。

これらをリングラジエーター型ツィーターのPeerless XT25TG30-04に取り付けて試験的な測定を行いました。

フェースプレートの取り外し

フェースプレートはトルクスネジと接着剤で取り付けられています。幸いにも接着剤はやわらかいタイプなので力を入れると外すことができます。ネジを外してから、フェースプレートと本体の隙間にマイナスドライバーを入れて力をかけると剥がれます。

フェースプレートの取り外し

アダプターの製作と取り付け

そのままではウェーブガイドに取り付けはできませんので、アダプターを製作します。WG-300はスロート部分が出っ張っているので高さの調整は必要ないですが、WG148Rの方は平坦なため4mmほどスロートを延長しなければ取り付けることができません。

アダプターの設計

発注して届いたアダプターを取り付けてからWG148Rを固定します。アダプターのクリアランスがとれてなくて、かなりきつくなってしまいました。

WG148Rの取り付け

測定用エンクロージャーの製作

測定用にバッフルが交換可能なエンクロージャーを製作しました。バッフルは手抜きをしてマスキングテープで固定しています。テープの段差は少し特性に影響が出るかもしれません。

サイズは縦300mm * 横206mmで後面は開放となっており、バッフルの上下左右は丸めてあります。交換可能なバッフル板の中央にスピーカーユニットがフラッシュマウントされます。

測定用のエンクロージャー

交換可能なバッフル板と実際にユニットを取り付けた様子

この状態でのディフラクションのシミュレーションは以下です。測定結果はこの特性を差し引いて検討する必要があります。

測定用エンクロージャーのディフラクション

測定結果

Far Field測定で、軸上1mにマイクを設置しての測定です。製作した測定用回転台を使い、クロスラインレーザーを3台使って位置の調整を行っています。

まずはウェーブガイドをつけないユニット単体での測定結果からです。ディフラクションのシミュレーション通り1kHzのあたりで大きなピークが出て2.5kHzのあたりにディップが生まれていることがわかります。

また指向性もディフラクションの影響のある帯域において乱れています。

XT25TG30-04単体での測定結果

15kHz付近から音圧が上昇していますが、これはデータシートの特性を見ると、もともとの特性がそのようなものなのかなと思いました。

XT25TG30-04のデータシートのSPL

次にVisaton WG148Rを取り付けた時の測定結果を見てみましょう。

2〜5kHzにおいてウェーブガイドの効果で音圧が上昇していることがわかります。またユニット単体の時と比べるとディフラクションの影響は小さくなっており、その帯域での指向性の乱れは少ないようです。

軸上SPLで正規化したグラフを見ると、指向性はユニット単体と比べるとスムーズになっており、軸外にいくにつれてきれいに減衰しています。

Visaton WG148R + XT25TG30-04の測定結果

下図はXT25TG30-04単体とWG148R取り付け時を比較したグラフで点線がユニット単体、実線がWG148R取り付け時を表しています。

5kHz以降は差が小さいのですが、単体でも25kHz付近にあったピークがウェーブガイドの影響か大きくなってしまっているようです。

XT25TG30-04単体とWG148R取り付け時の比較

次にMonacor WG-300を取り付けた結果を見てみましょう。これもWG148Rの結果とはさほど変わらずで、2〜5kHzにおいて音圧が上昇していることとディフラクションの影響が小さくなっていること、指向性がスムーズになっていること、25kHz付近のピークが大きくなっていることが見て取れます。

Monacor WG-300 + XT25TG30-04の測定結果

最後にVisaton WG148RとMonacor WG-300を取り付けた時の比較グラフが以下です。点線がWG148R、実線がWG-300を表しています。

ウェーブガイドの大きさの影響か2〜5kHzにおいての音圧の上昇効果はWG-300の方が強いようです。それ以外には大きな差はなさそうです。

WG148RとWG-300の軸上SPL比較

まとめ

ウェーブガイドを取り付けることによって指向性が整いディフラクションの影響も小さくなることがわかりました。

ただこの測定結果を見ると軸上では8kHz付近が谷になっているような音圧特性となっており、クロスオーバーネットワークを組むのが楽になるのかイメージが湧かない感じもあります。

別のツィーターを使って実験してみても良いかもしれません。

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